文化的放電

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よくわからない場面は1,2場で十分です/星組『VIOLETOPIA』感想

 

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4月6日は星組公演『RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem~』『VIOLETOPIA』の大千秋楽でした。

モリタは配信2回、東京で1回(奇跡のSS席!)見ることができました。


www.youtube.com

感想を記録しておきます。まずは『VIOLETOPIA』から。

あらかじめお断りしておくと、モリタと本作は相性があまりよくなかったので辛口感想です。

まずは好きなところから

第5場 楽屋、燻る憧憬

その場にいない女優を思って鏡にまで嫉妬する男役たち。若手男役たちのかわいげのあるキラキラを楽しめる場面でした。

極美慎の滑舌がすごく良くなってました。

滑舌がいいと歌詞がストレスなく聞き取れるので、その場面がどういう場面か初見の人でもわかって楽しめます。真ん中に立つには滑舌がすごく大事だと思う。

天飛華音も滑舌いいんですよねぇ。星組盤石だ。

第6場 狂乱の酒・観客・酒

本日発表された舞空瞳の退団。それを思うと、このショーで黒燕尾姿を見られたのはほんとうに良かったです。

星組生全体でのスピーディでクールなダンスもかっこよかった。

礼真琴がトップになってから、星組生全体のダンスや歌のスキルがめちゃくちゃ向上したと感じます。

第7場 孤独

中詰のあと1人取り残された礼真琴が、壇上で踊りまくる圧巻の場面。

後述するのですが、ここまでの場面で心が乗れていなかったので、理性ですごいなーと味わう場面になってしまいました。

『ロックオペラ・モーツァルト』で、失意のモーツァルトがパリの街なかをボロボロの衣装でのたうち回る場面があって、モリタはその時礼真琴の圧倒的ダンス力を初めて目の当たりにしたのです。

幕間に入ってもしばらく呆然としてしまうほど心を揺さぶられたことを思い出しました。

本ショーの本場面はあえて地味な衣装で礼真琴の超絶ダンスを見せる、という意図だったと思うのですが、『ロックオペラ・モーツァルト』でのインパクトが強すぎました。モリタにとっては、好きだけど既視感がある場面でした。

ショーなのだから、燕尾やツヤのあるスーツなどわかりやすく王道な衣装で、技術だけでなくスターのキラキラ感も楽しみたかったです。

第8場 エントランス・ノスタルジー

退団者の餞別場面。ここが一番好きです!

クラシカルなブラウンのコート&スーツスタイルで銀橋を歩く天華えま。少し鼻にかかった、ゆったりとした歌声に身を委ねていたら,1930年代風の娘役たちが登場。

これこれ!こういうのが見たかったの!と心のなかで拍手喝采!

指田先生!こういう場面もっとやってくださーい!

フィナーレ

衣装、演出ともによかった。

特に舞空瞳の「わたしが星組のトップ娘役です☆」を体現した女王のようなきらびやかさには、いいもん見たな〜と大満足。

 

と、好きな場面はこんな感じです。

全体として、ジェンヌの持ち味と指田先生の世界観がうまくかけ合わさっているところが印象に残っています。

絵画的な美しさ

指田先生のこれまでの作品はご縁がなくて見たことがないのですが、先行画像やポスターからその独特の雰囲気が印象に残っています。

本ショーでも指田ワールド全開の場面が多く、配信で映った引きの画が絵画のようで驚きました。

特に第1場 追憶の劇場、第3場 サーカス小屋の宿命、第6場 狂乱の酒・観客・酒。

衣装や照明などがジェンヌの魅力を際立たせるよりも、場面全体としての美しさを優先して組み立てられているように感じました。

マジョリカマジョルカの宣伝画像やミュージシャンのPVのような印象。

その商品や曲の世界観を表す、という目的であれば素晴らしい作品だと思う。

ここが、逆にモリタには合わなかった部分でもあります。

1人1人のジェンヌを際立たせることが最大の目的(観客、特に常連ほどジェンヌを見に来ているわけだし)である宝塚に求めている作品ではありませんでした。

 

ここから、本ショーの苦手なところを言語化していきます。VIOLETOPIA大好き!何度も見て考察しちゃう!な方は回れ右推奨です。

苦手なところ

説明不足でVIOLETOPIAの設定がよくわからない

上田久美子『BADDY』、栗田優香『万華鏡百景色』のように、女性演出家によるショーは独自の世界観が強いですが、この2作品は冒頭の歌で世界観をしっかりと説明していました。

BADDYは「ここはピースフルプラネット"地球"。ここでは悪がすべて排除されている。そこに月から悪(BADDY)がやってくる」お話。

万華鏡百景色は「万華鏡の付喪神たちが語る、一組の男女の江戸時代から現代にかける輪廻転生の物語」。

初見でも、パンフレットを読んでいなくてもわかります。

rintaro-mu.hatenablog.com

本作は「VIOLETOPIA」という造語がテーマです。なおさら、第1場で礼真琴の歌で世界観を説明する必要があったと感じます。「追憶の劇場 VIOLETOPIA」の歌詞だけでは、なんか寂しいショーなんだなという雰囲気しか伝わらず、そこでどんなお話が展開されていくかがわかりませんでした。

「VIOLETOPIA」、ぱっと聞いただけで受け取るイメージは「スミレの理想郷」。

可憐でハッピーな感じのショーなのかなと思ってみれば、お出しされるのは「廃墟の劇場とそこに棲み着く記憶が蘇る。劇場でありながら魔界、VIOLETOPIA」の退廃的な世界観です。

開演前によっぽどパンフレットを読み込んでいる人でなければ、このギャップについていってショーに入り込むことはできないでしょう。

終演後のロビーで「VIOLETOPIAっていうから可愛いショーだと思ってたわ。なんだか怖いショーだったわね」という感想が耳に入り、心のなかで全力で同意しました。

初見でよくわからない場面が多すぎる

例えば第2場 バックステージは虚構。

暁千星が登場したから暁千星を見ていれば話がわかるのかと思いきや、舞台の真ん中にいるのは天華えまと天飛華音…。

ここも暁千星登場時の歌で、花嫁役のダンサーに思いを寄せる裏方の青年が主役だよ、と説明がほしかったです。

せっかくの暁千星のワークブーツでのキレッキレのダンスと詩ちづるとの長いスピンも、 これはなんの場面? この人たちの関係性は? などに気を取られて集中できませんでした。

モリタが見た回では、せっかくのスピンに拍手なし。普段のショーならあれだけ長いスピンなら拍手が起こるはず。

「ああ、ここはこういう場面なのね」と観客がスッと理解できるって大事なのだと実感しました。

モリタが感じた客席の雰囲気では、中詰に入るまで観客はおいていきぼりでした。

(オペラを上げている人が少なく、ウトウトしている人もいた。円熟期の星組公演なのに…)

初見ですぐにどういう場面かわかったのは、「第5場 楽屋、燻る憧憬」くらいかな。

一方「第8場 エントランス・ノスタルジー」は、どういう場面かわからなくても天華えまはじめとするジェンヌたちの魅力にうっとりできる、大変宝塚らしい場面でした。

盛り上がってははしごをはずすような展開が続く

本ショーが狙った観客の心の動きは、はたして宝塚を見に来ている観客が求めているものだったのか?と疑問です。

盛り上がったと思ったらしぼんでいったり、泡が弾けるように夢から覚める展開が多すぎました。

第2場 バックステージは虚構では、暁千星のロングスピンで魅せたかと思いきや、(それまでの展開は青年の夢想だったから)何事もなかったかのように淡々とはけていく現実の登場人物たち。

第3場 サーカス小屋の宿命、一瞬で遠くに去りゆくサーカス団員たち。(影絵の演出、絵としてはものすごく美しい)

第6場狂乱の酒・観客・酒、星組生による美しい集団パフォーマンス(でも誰も目立っていない…)からの第7場 孤独で舞台に一人取り残されるトップスター。

手拍子などで客席も一緒に盛り上がっていたのに、上がったテンションの持っていきどころがなかったです。

予定調和を避けた展開はスパイスになるけれど、何度も続くとはしごを外されているように感じました。

トンチキな作品であっても、ジェンヌの持つエネルギーでいいもの見たなぁと思えるのが宝塚の強みだと思っています。なのに本作はこの構成のせいで、せっかくジェンヌのエネルギーが観客まで届いても、それを取りあげたり、しぼめてしまう。

フィナーレ〜パレードあたりの余韻しか持って帰れず、エネルギー不足で『ジャガービート』のBlu-rayを衝動買いしてしまいました。

退廃的で前衛的な雰囲気が、今の星組の持ち味と相性がよくない

場面としての統一感や美しさを優先した衣装に、ジェンヌのせっかくのビジュアルが紛れていることも多かったです。

追憶の劇場、サーカス小屋の宿命、中詰(宮廷と役者と青春)の衣装、狂乱の酒・観客・酒あたり…。

特に中詰は、トップ・礼真琴すらあまり目立っていなかった。あえて衣装にそこまで差をつけていないように見えました。

衣装に負けていなかったのは、暁千星や極美慎レベルのスタイルの持ち主だけだったような。

不協和音が続く音楽が、礼真琴、暁千星のエネルギーのある発声とあまりあっていなかったのも印象に残っています。極美慎や天飛華音も発声や滑舌が礼真琴に似ているので、男役1〜4番手とあっていなかったってことでは…。

ジェンヌの歌を楽しむ前に、本能的にソワソワと落ち着かない音楽が多かったです。

サイバーサングラス

ラインダンスで「ここからの流れは王道っぽい」と思っていたら、大階段に並ぶ男役たちの顔にサイバーサングラス。心の中でずっこけてしまいました。

男役群舞だというのにあんなにもオペラグラスをあげている人が少ないショーは初めてです。みんな贔屓を探すのを諦めていたのだろうか。

サングラスがあることによってジェンヌがかっこよく見える、というわけでもないし。(『BADDY』の大門サングラスは必要な演出だとわかるけど)スターシステムが前提にある宝塚に、本当にそぐわない演出だったなと思います。(サングラスを外した後に炸裂する星組男役のオラオラ芸はよかった!)

 

なんだかんだで、好印象をいだかなかった観客にここまで長文の感想を書かせるってのが指田先生のすごさなんだなと思います。語らせる力があるというか…。

大衆性と折り合いのついた指田先生の今後のショー作品に期待しています。

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星組『RRR』新人公演感想

星組『RRR』新人公演の配信を視聴しました。

ざっくりと感想を残しておきます。

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主要キャスト感想

ビーム/大希颯(105期)

男役として恵まれた体格に、涼やかな顔立ちでありながら情念を演じられる力のある瞳。総じて、初主演とは思えない驚きの真ん中力でした。

声と滑舌がよく、ストレスなく最後までお話に集中できました。 登場時こそ歌が安定しなかったですが(礼真琴仕様の爆踊りしながらだし)、ほかの歌はすごく安定していました。

舞台映えする体格と印象に残りやすい顔立ち、さらに安定した歌唱力を持っている男役って、実は路線の中でも貴重です。

本役の礼真琴とは持ち味が真逆ですが、演技は本役をかなり踏襲しているように見えました。ですが、素材が全然違うことにより大希颯でないとできないビームにしあがっていました。

特に”アクタル”の時の気の良い兄ちゃん感が自然体でよかったー。

新人公演ではビームのほうがラーマより背が高いので、ラーマを自分の兄のように慕う姿が大型犬のようでかわいかったです。

使命のことを思う時(勝手に羊飼いモードと呼んでいる)に、切れ長な目をじっと細めて三白眼になるところ、妖艶さすら感じるすごみがありました。

その真骨頂が「コムラム・ビームよ」。

森を出たときから仲間の守護神だった礼ビームが圧倒的歌唱力で空間を染め上げたのに対して、森出身の無垢な青年に彼を守護する精霊たちが宿ったかのように覚醒した大希ビーム。

序盤からチラ見せされていた羊飼いモードの三白眼でラーマを強く見すえるところ、ゾクッとしました。それを受けた御剣ラーマの露骨にギクッとした演技。ラーマには、驚異的な理性でおさえていたイギリスへの恨みを、ビームに見透かされたように見えたのではないでしょうか。

新公中にもぐんぐん成長していっているのを感じました。森で再登場したビーム、冒頭と比べると迫力も貫禄も段違いで息をのみました。大槍振り回しも危なげなし。

今回のビームははまり役だったと思うので、このチャンスを大いに活かして、これからも魅力をがんがん発揮していってほしいです。

若手ばかりのナートゥ場面は爽やか度5割増でした。狙ったのかわからないけれど、期待の105期同士が対峙して胸熱。

ビーム役の大希颯は今回初主演。ジェイク役の稀煌かずとは一足先に新公主演を経験している。

中の人のその関係を踏まえた上で、ジェイクがビームを煽ってナートゥに入っていく流れは、105期のよきライバルが今後も切磋琢磨しあっていく暗示のようでした。

ラーマ/御剣海(104期)

よかった! 特に演技!

カメラが要所要所でラーマの表情抜いてくれるのに愛を感じました。今回のカメラさん、あの子もこの子も撮らないと!で色々なジェンヌの見せ場をしっかり映してくれてましたね。切り替わり激しかったけどまぁよし。

モリタが思う本役・暁千星の魅力は、自身の持ち味を活かしたギラつきと月組で培った繊細さを、演技で自在に使い分けるところ。(ex:ダルレークの恋、川霧の橋)

その暁千星の演技スタイルを愚直におさえていった感じ。大希ビームが無垢で使命にまっすぐな分、葛藤をかかえた御剣ラーマの一瞬一瞬の表情が際立っていました。

スタイルも良くてひとつひとつのポーズがきれいでした。歌舞伎の見得のように場面がピシッと止まって強調される演出(ビームとラーマが腕をつかみ合うところとか)が多用される本作では、大変映えていました。

ジェニー/乙華菜乃(106期)

本役舞空ジェニーよりも大人っぽくて優等生な感じでした。

舞空ジェニーは今までもちょこちょこ反抗してガス抜きしてそうな自由さを感じたけど、乙華ジェニーはずっと真面目に役割を果たしてきた印象。

初めてにして最大の反抗が、今回のビームへの協力のように見えました。

稀煌ジェイクもさぞやびっくりしたことでしょう。

そのほかのキャスト感想

キャサリン/瑠璃花夏(103期) 『ディミトリ』の新人公演で知って以来、注目している娘役さんです。持ち味が元花組トップ娘役・仙名彩世と似ている。

キャサリン役はもう、さすが! 本公演並のクオリティで、断トツでうまかったです。

パーティの場面、ゴージャスでキラキラで美しかった!

路線に乗るのか、娘2役として物語のキーウーマンをおさえていくのか、どちらにせよもっと見たい娘役さんです。

長の期としての挨拶も堂々として美しかった。

SINGERRR女/詩ちづる(105期) きっちりカメラが抜いてくれたSINGERRR女役。本公演ではあまり見ない、険しい顔で力強く歌いあげる姿が印象的でした。

マッリ/茉莉那ふみ(108期) マッリ役を任されるだけあって、歌が本当に上手。マッリとビームのデュエット、新公とは思えない没入感がありました。

シータ/綾音美蘭(104期) 本役に比べて圧強めのシータがよかった。彼女も歌が上手。星組娘役は実力者揃いだなぁ。

 

星組の新人公演を見たのは2023年『ディミトリ』以来。

今回の新人公演で、極美慎と天飛華音以降の下級生の顔と名前がだいぶ一致してきました。

次の別箱でどんな活躍を見せてくれるか、星組の次世代がますます楽しみです。

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栗田先生が1番月城かなとに夢を見ている/月組『万華鏡百景色』感想

月組公演 『フリューゲル -君がくれた翼-』『万華鏡百景色(ばんかきょうひゃくげしき)』 | 宝塚歌劇公式ホームページから引用

月組『フリューゲルー君がくれた翼ー』『万華鏡百景色』の東京公演を見てきました。

大劇場公演観劇後にフリューゲルの感想は記事にしたので、今回は万華鏡百景色の感想です。

rintaro-mu.hatenablog.com 

栗田優香先生のショーデビュー作にして意欲作

一言で言うと、栗田先生が今までにない月城かなとをこれでもか!と繰り出すデビュー作にして意欲作でした。

 

ダル・レークの恋』あたりから、月城かなとのイメージは「高値安定」でした。

絶対いいものを見せてくれる安心感と表裏一体で、予測可能性が高かったのです。

いつ行っても素晴らしいクオリティが担保されていることは嬉しいのですが、たまにはちょっと違う面も見てみたいな〜と思ってしまうのがわがままなファンというもの。

 

そんなところにお出しされたのが今回のショー。

栗田先生、色々な月城かなとを見せてくれてありがとう!

パンフレットを開いた時点で伝わった。今回の月城かなとは違うぞ、と。

むしろ栗田先生ご自身が、あんな月城かなと、こんな月城かなとが見たい!と構成したのではなかろうか。

それだけ演出家のエネルギーを感じる構成だったし、新しい月城かなと=新しい月組像に月組生一丸となってチャレンジしていた印象でした。

退団1作前にこのショーがあったのは、月組生にとってもファンにとっても僥倖だと思う。

モリタがむむむ!これはレア!と思った場面だけでもこのとおり。

  • 黒髪の和風ファンタジーな月城かなと(吉原遊廓。この雰囲気は雪組時代の青紫以来…?)
  • 白軍服月城かなと(鹿鳴館。意外とここまでベタな軍服は珍しいような…「赤と黒」で真っ赤な軍服は着ていたけど)
  • ショッキングピンクに花札柄のマント、怪しいサングラスのうさんくさい闇市のドン月城かなと(闇市。リップの色も最高! ドンの衣装はパンフレットにも採用)
  • ピンクのテロテロスーツ月城かなと(中詰。IAFA以来の衣装のテロテロ感)
  • 青いアイシャドウに黒いリップ、羽付きウィッグの月城かなと(スクランブル交差点。ロミジュリの「死」のようなダークな雰囲気。でもカラスだからね、血が通っている感じがあった)

そしてデュエダンでは安定の月城かなとが帰ってきました。輪廻の果てに巡り会えた海乃美月との多幸感たっぷりのデュエットダンス、よかったです。

同時退団を発表して肩の荷が降りたのか、最後まで2人でがんばろうね、と絆を新たにしたのか、東京公演では幸せオーラがぐぐっと増していました。

以下、印象に残った場面を記録します。

吉原遊廓

花火師と花魁の場面の付喪神達、新公主演経験者ばかりでとても豪華!

誰を見ればいいのか迷いに迷った結果、1回目は夢奈瑠音、2回目は英かおとを中心に見ました。トップコンビも狂言回しの鳳月杏も見ないとで大変忙しい。

付喪神のたちの表情がとてもよかったです。

花火師と花魁を暖かく見守っているようで、冷たくつき放しているような不思議な表情。それでいて、演者それぞれ、微妙に温度感が違っていました。

最後は、花火師をぶった斬った付喪神・英かおとに釘付け。

何、あの表情は…。

銀座煉瓦通り

かわいいで舞台がうめつくされたサンリオのような場面でした。

彩みちるのモガと礼華はるのモボ、かわいーーー!

彩海せらのモボと白河りりも大変かわいい。

「かわいい」しか出てこない場面の中心が、二桁学年99期生・彩みちるだというところが、とても月組らしくて好き。(受け継がれる千海華蘭芸)

地獄変

かわいい「銀座煉瓦通り」からの温度差が強烈な場面。

鳳月杏演じる「芥川龍之介」と男役による女役「業」たちで作り上げた、芸術的とも言える場面でした。トップコンビが出ていない場面でこれだけのクオリティ、今の月組の層の厚さを感じました。

裸足でのダンスは猛々しく鬼気迫るのに、スカートのスリットが深いせいか不思議な色気がある。この壮絶な場面で「業」たちに色気を感じてしまうことが、目の前で娘が燃えているのに筆を止めることができない良秀の背徳感と重なってゾクリとしました。

1回目は夢奈瑠音、2回目は英かおとに注目して見ました。

夢奈瑠音は良秀を直接誘う「業S」。フリューゲルといい、いい配役ですね。

朗らかで爽やかなイメージの強い英かおとによる「強い」女役はハッとするほど色気がありました。

大殿演じる蓮つかさもよかった。退団公演で演じきった憎まれ役、素晴らしい。

この場面唯一の娘役・天紫珠李。悲劇の娘を演じながらも「業」の圧に負けてないところがさすが。『応天の門』といい、平安ものが似合う。

場面ラストの芥川龍之介もとい良秀の影だけが幕に残る演出も素晴らしかった。

闇市

衣装もキャラも濃ゆい!

今まで月城かなとに、清濁併せ呑む男の世界で生きる男!のイメージが無かったので驚いたけど、すごく楽しそうに演じていました。風間柚乃との男臭い因縁を感じるキャラ設定もめずらしい。

東京公演ではこなれて、いい意味でのゆるさが出ていた。

コテコテの柄の悪さとサングラスでは隠しきれない品の良い容姿。

それが海乃美月演じるチャイナ服の娼婦との間の過去の純愛に説得力を持たせていました。戦前は2人とも、闇市のような混沌とは縁の無い世界で生きていたのでしょうね…。

海乃美月と歩く米兵・七城雅のオラみも大変よかった。

ロケットダンス

モノトーンのアクティブなショートパンツ衣装によるロケットダンスもよかったー!
BADDY以来の、なんだかスカッとするロケットでした!

愛希れいかと同じく元男役の天紫珠李だったからだろうか。健康的で明るくて、朝見たいロケットダンスでした。

「STAY TUNE」

Z-BOYSはショー定番の若手男役達による場面。これからこの子達活躍していきますよ!というメンバーを1人1人覚えられるから好きです。

このゆるゆるの衣装でかっこよく、というのは男役としてかなり難易度高いと思うけど、さらっと着こなしててよかった。

月組の若手男役達、スタイルがいい人多いもんな。

スクランブル交差点

ここもよかった〜。

冒頭から、本公演で退団する蓮つかさによる満員電車に揺られるサラリーマンがインパクト大きい。日常の疲れを感じる気だるい歌声なのにしっかり歌詞が聴き取れて、芸が細かい。

くたびれてはいるのだけど、どこかまだ何かを諦め切ってはいない、宝塚の男役ならではの不思議なサラリーマンでした。

夢奈瑠音のゆるゆる白パーカーに黒キャップ姿も好きだ。

男役歴10年以上だからこそ出せる、ただのゆるい若者じゃない、不思議なオーラがある。

街ですれ違った時に、今の人めっちゃ顔小さくない?!と慌てて振り返っても、すでに姿は無いような。

それこそ東京という街が人の姿をとったようだった。

フィナーレ

椎名林檎「目抜き通り」をバックにワインレッドのスーツで娘役たちと踊る鳳月杏、めっちゃいい場面でした。ずっと見ていたい。

彩みちる、天紫珠李の黒髪ボブに赤をきかせたメイクもめっちゃ素敵。

男役群舞でしみじみ感じましたが、今の月組は層が厚い上に、個性が際立っていますね。

トップから3番手まではもちろん、それに続く礼華はる、彩海せらや新公主演経験者の夢奈瑠音、蓮つかさ、英かおとに至るまで、持ち味がうまいことばらけている。

ほんと、目が足りなくてオペラグラスがふらふらします。だから何度も行きたくなってしまう。

 

11月7日(火)から、主演トップ娘含む大規模な代役公演まっただ中ですが、層の厚い月組ならきっと乗り越えられるはず。

(公開前に劇団から発表がありました。11月11日(土)11時公演から海乃美月復帰! よかった!)

代役公演を経験値として、全員揃った千秋楽公演を迎えられることを祈っています。

 

♦︎宝塚歌劇団・月組の公演感想◆  『グレート・ギャツビー』(2022年東京宝塚劇場)
『川霧の橋』①(2021年博多座)
『川霧の橋』②(2021年博多座) 

 

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月組×齋藤先生の楽しさがつまった良作品|月組『フリューゲルー君がくれた翼ー』感想

月組『フリューゲルー君がくれた翼ー』『万華鏡百景色』を見てきました。

宝塚大劇場で新人公演よりも前に行われた公演です。

(新人公演前後で本役さんの演技も大きく変わるので、この旨書いておきます)

ベルリンの壁崩壊という社会派なテーマを、コメディ調のホームドラマにまとめ上げた齋藤吉正先生の意欲作。

齋藤先生と月組の相性の良さもあって、事前に予想してたよりもはるかに楽しい良作品でした。

ストーリーのネタバレがありますので、まだ見ていない方はご注意ください。

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画像は 月組公演 『フリューゲル -君がくれた翼-』『万華鏡百景色(ばんかきょうひゃくげしき)』 | 宝塚歌劇公式ホームページ  より引用kageki.hankyu.co.jp

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シリアスとコメディの絶妙なさじ加減

舞台は社会主義政権下の東ドイツ。

東ドイツの軍人官僚ヨナス(月城かなと)と西ドイツからやってきた歌手ナディア(海乃美月)の対立と融和のストーリー。

物語のクライマックスはベルリンの壁崩壊。

 

テーマはお堅いのに、お勉強作品にならない。

時代背景がよくわからなくても、月組生の演技で、東西それぞれのキャラクターたちの考え方の違いがしっかり伝わるからだと思います。

齋藤先生が月組生の演技の説得力を信頼していているからか、説明するためだけのセリフで辟易する場面はありませんでした。

 

時代背景を反映したシリアスな要素も盛り込んで、物語の中にしっかり明暗をつけていたところも好きです。

それが最もはっきり現れていたのが、ヘルムート(鳳月杏)のラストシーン。

え!嘘!と、結構ショッキングでした。

ストーリー全体をコメディの雰囲気でくるんでいるので、壁崩壊で全員仲良く和解しました、めでたしめでたし、としたって悪くないとは思う。

でも、おそらく本作品のために東ドイツについて徹底的に勉強された齋藤先生にとって、安易なハッピーエンドにはすることはできなかったのでしょう。

世の中には決して相容れない考え方がある、というヘルムートのラストがあったからこそ、ヨナスと母親(白雪さちか)の再会やヨナスとナディアの相互理解が、より尊いものに感じられるのだと思うのです。

斎藤先生の絶妙なさじ加減でした。

月組と斎藤先生の相性の良さを実感する楽しい作品

斎藤先生の作品は、役名のない通行人や群衆にも一人一人の人生が設定されているように感じます。

それが、芝居の月組と大変相性が良い。

最近の作品だと…

  • 夢現無双の京都の町人や大和路の人々
  • IAFAのホテルマンやセレブたち

月組お得意の小芝居が加わって、登場人物が群衆一人一人にいたるまで濃い!

本作品でも、ヨナスの部下トーマ(礼華はる)には元レスリング選手という設定があります。*1

多分これ、作中では明言されていないはず。

だけどこの設定、きっちり役作りには反映されていて、トーマはちょいちょいダンベル持っていたり、脳筋な発言やリアクションがあるんでるよね。

こういったしかけがどの登場人物にもあるので、何度見ても、え!ここでこの人こんなことしてたの?!という発見を楽しめそうな作品です。

ベルリンの壁崩壊の場面が素晴らしかった!!

1789のクライマックスがバスティーユ監獄襲撃なら、本作品のクライマックスはベルリンの壁崩壊。

気がついたら涙が出てくるくらい心を揺さぶるシーンでした。泣くと思って見に行ってなかったから、ほんとうに驚いた。

壁に集まる民衆と保安職員たちの混沌から、ゆっくりと響きだすフランツ神父(夢奈瑠音)のベートーヴェンの第九・喜びの歌。

ステージも会場も静まり返り、登場人物だけでなく、全ての観客の意識がただ1点、フランツ神父に集中したように感じました。

夢奈瑠音は、ほんっとうに声がいい。

彼女の良さを活かした、素晴らしい役と場面だと思います。

 

そこからの盛り上がりもすごい。

盆が景気良くぐるぐる回って、東側と西側の民衆が交互に現れ、次々と第九に加わっていく。

月組生が作り出すハーモニーはただ美しいだけではなく、東西ドイツ融和への心からの願いが込められているように感じて、涙が出てきました。

 

筆者が見たときは、全体的にまだセリフの応酬への感情の味付けが手探り状態の印象でした。

ジェンヌさんの役への理解が深まって、演じるたびに変化していくのが舞台の魅力。

ここまでにいたる登場人物の感情により磨きをかけて、ベルリンの壁崩壊の場面でもっと貪欲に観客の心に揺さぶりをかけてきてくれることに期待します。

また東京で見るのがとっても楽しみです。

 

▼ショー『万華鏡百景色』の感想はこちら

rintaro-mu.hatenablog.com

 

 

 

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*1:宝塚大劇場版パンフレットの礼華春インタビューより

月組『グレート・ギャツビー』感想/月城かなとの月組の代表作になる作品

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東京宝塚劇場で月組公演「グレート・ギャツビー」を見てきました。
私が宝塚に求めているものがぎゅっとつまった、めちゃくちゃ満足度の高い観劇でした。
男役のスーツ姿のクラシカルなかっこよさ、初々しい恋愛模様、誰かと軽く小一時間は語りあえる登場人物たちの人生模様、終盤の悲劇に向けて演者たちの狂気すら感じる演技。
間違いなく、月城かなと率いる芝居の月組の代表作になる作品だと思います。

kageki.hankyu.co.jp

 

 youtu.be

 

「乙女の夢」を体現する月城ギャツビーが浮き彫りにした、どうしようもない「現実」

小池先生は宝塚の三谷幸喜だと思っているところがありまして、演出家が表現したいテーマと大衆受け要素がバランスよく混ざっているところがとても好きです。

「グレート・ギャツビー」のテーマは「結局振り向いてくれない愛する人のために全てを尽くす男のロマン」でしょうか。

真面目さが持ち味の月城が演じたことで、テーマがより際立っていたと思います。

ギャツビーがデイジーのために手に入れ、差し出したもの全てが、自意識を捨てた純粋なものに感じました。

月城ギャツビーは、美しく、財力があり、その全てを自分のために向けてくれる…女性向けの恋愛小説に登場するヒーローのように乙女の夢を体現する存在です。

何より、泥沼を這う努力をしてこの要素を揃えたギャツビーの涙ぐましい日々が胸を打ちます。

色々ツッコミどころはあっても、それが健気さに変換されてしまうビジュアルも強い。

でも、デイジーは差し出されたものを拒ばむことを選んだ。

月城ギャツビがー魅力的であればあるほど、デイジーにそうさせた世間体や子供の未来といった「現実」が浮き彫りになります。

観客の年齢や家庭環境などによって、受け取り方や感想が大きく変わる作品だと思います。こういう作品すごく好き。

確かに、現実的に考えると、ギャツビーは裏社会と手を切った後、どうやってデイジーが望む生活レベルを維持していくつもりだったのかなぁ。

デイジー、年に1度は本場ロシアまでバレエを見に行きたいの!とか言い出しそうだものなぁ。

月組子の魅力あふれる場面もたくさん

VISA協賛による豪華な衣装、今回の再演から追加されたジーグフェルド・フォリーズの場面をはじめとする華やかなシーン、路線男役たちの二面性のある演技が「宝塚見にきたーーー!」とめちゃくちゃ満足度高かったです。

特に、路線男役達による昼はギャツビー家の使用人/夜は裏社会の顔という二面性ある役はさすが芝居の月組。

輝月ウルフシェイム率いるダンスシーンでのみんなの野望に満ちた目、めっちゃよい。

他にも、ギャツビー邸での舞踏会やゴルフコンペなどでの組子のバイト出演も見どころ。

名前の無い登場人物であっても性格を想像させる小芝居上手な月組にぴったり。

ゴルフコンペ場面なんて、きゅるんきゅるんの千海華蘭キャディに気を取られてあやうく本筋を見逃すところでした。

組ファンなら一粒で何度もおいしいエンタメに仕上がっていた「グレート・ギャツビー」。全部味わうには目が足りない。観劇回数も足りない。

東京千秋楽公演はいつも配信で楽しんでいるのですが、今回は「グレート・ギャツビー」の世界にどっぷりつかるためにライブビューイングで見る予定。

今から楽しみです。

♦︎宝塚歌劇団・月組の公演感想◆ 『万華鏡百景色』(2023年宝塚大劇場・東京宝塚劇場)
『フリューゲルー君がくれた翼ー』(2023年宝塚大劇場・東京宝塚劇場)
 『川霧の橋』①(2021年博多座)
『川霧の橋』②(2021年博多座) 



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全てを解決するのはやっぱりトップスターの愛だよね!ザ・花組な名作/花組「元禄バロックロック」ネタバレ感想

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花組東京公演、無事に千秋楽を迎えられてよかった!

配信で花組の皆様、会場の皆様と一緒にこの公演を楽しむことができた奇跡に感謝しています。

生観劇も含めて、今日の配信が2022年の宝塚初めでした。延期されている他の組の公演も、予定どおり再開されることを祈ります。

さて、忘れないうちに「元禄バロックロック」の感想です!

kageki.hankyu.co.jp

三井住友VISAカード シアター
忠臣蔵ファンタジー
『元禄バロックロック』
作・演出/谷 貴矢

花、咲き乱れる国際都市、エド。そこには世界中から科学の粋が集められ、百花繚乱のバロック文化が形成されていた。
赤穂藩藩士の優しく真面目な時計職人、クロノスケは、貧しいながらもエドで穏やかに暮らしていたが、ある日偶然にも時を戻せる時計を発明してしまい、人生が一変する。時計を利用し博打で大儲け、大金を手にしてすっかり人が変わってしまったのだ。我が世の春を謳歌するクロノスケであったが、女性関係だけは何故か時計が誤作動し、どうにも上手くいかない。その様子を見ながら妖しく微笑む女性が一人。彼女は自らをキラと名乗り、賭場の主であるという。クロノスケは次第に彼女の美しさに溺れ、爛れた愛を紡いでいくのだった。
一方、クロノスケの元へ、元赤穂藩家老クラノスケが訪ねてくる。コウズケノスケとの遺恨により切腹した主君、タクミノカミの仇を討つために協力してほしい、と頼みに来たのだ。だがそこにいたのは、かつての誠実な姿からは見る影も無くなってしまったクロノスケだった。時を巻き戻したいと嘆くクラノスケに、時計を握りしめ胸の奥が痛むクロノスケ。だが、次の言葉で表情が一変する。コウズケノスケには、キラと言う女の隠し子がいることを突き止めたと言うのだった・・・。


www.youtube.com

谷貴矢先生、大劇場公演デビューおめでとう!

「元禄バロックロック」は、推し演出家の一人である谷貴矢先生の大劇場公演デビュー作です。

言葉遊びと鮮やかな色彩感覚、突飛な世界観で観客の度肝を抜くけれど、人と人との互いを想う心が主題なことが多く、見終わった後には温かい気持ちにさせてくれる演出家です。

韻を踏みまくるテーマソングもクセになります。光の演出もお上手なので、できれば劇場で観劇してどっぷりとその世界にひたりたかった…。

「元禄バロックロック」も、大劇場公演だからって一切の遠慮することのない谷貴矢ワールド全開のタイトル&あらすじで、発表された時からめちゃくちゃ期待していました。

鎖国していないifのエドでコウズケノスケの娘を中心に繰り広げられる忠臣蔵のサイドストーリー。

アニメやゲームなど二次元作品では当たり前となっている「ループもの」の構成を取り入れて、観客を置いてきぼりにすることなくハッピーエンドにまとめ上げた快作でした。

ダンダラ模様でおなじみの赤穂浪士の衣装もすっかり谷貴矢ワールドでしたね。鈍く輝くシルバーを基調に、さまざまな素材の生地や柄がモノクロながらも華やかにまとめ上げられていて目を楽しませくれました。衣装担当は加藤真美先生。

クロノスケ/柚香光

めっちゃくちゃかっこよかった…!

この作品、宝塚で上演されていなかったら、キラを主人公として描くほうがおさまりがいいストーリー。クロノスケを主人公としてまとめ上げることができたのは、柚香光の圧倒的なビジュアル、特にキラを見つめる熱のこもった眼差しあってこそだと思う。

たった一人で時空を超えて戦ってきたキラを救うために、「時を戻して主君を救う」忠義のカタチへの執着を捨てたクロノスケの決断が、キラだけでなく執着にとらわれていた登場人物達を未来に進めることができた。

クロノスケがキラをどれだけ大事に思っているか、がその決断の説得力になる。

相手役をどれだけ大切に思っているかを言外に表現することは柚香光の真骨頂。

「ハイカラさんが通る」の中尉の紅緒さん大好きっぷりとはまた違う、クロノスケならではの「好き」の表現が散りばめられていました。キラへの想いを眼差しに、言葉遣いに、抱きしめる腕に、と全身で表現して見ていて苦しくなるくらい。「好き」の表現方法の引き出しがなんて多いジェンヌさんなんだろう。

あー、今回もハッピーエンドでよかった!

花火の場面の後の、キラの自分への想いを知って安心したからか、リミッターを外した大好きオーラがすごかった。あんな至近距離でクロノスケから見つめられて余裕で微笑むキラはすごいわ。

ラスト付近の「キーラ、笑ってくれよ、なぁ」の言い方なんて、ほんと、ずるい〜〜〜!
脚本に載っていなかったので、大千秋楽だけのアドリブ?
それとも公演中につけたされたセリフなんでしょうか。
あんなの10代の時に見てたら柚香光を拗らせていましたよまったく。

キラ/星風まどか

同期からの引き継ぎという異例のかたちで花組トップ娘役になった星風まどか。

一人でなんでもできて余裕綽々だけど寂しそうに笑うキラ、その笑顔がクロノスケを惹きつけてやまない、なんて谷先生、まどかちゃんに素敵なあてがきを贈りましたね。

でもね、谷先生。父親から隠し部屋に閉じ込められて育てられ、赤穂浪士の討ち入りにより父親と愛する人を同時に失い、愛する人が残した設計図を元に独力で時を戻す時計を完成させ、たった一人で過去に戻り、実家を飛び出し賭場の主人におさまる…って、いくらなんでも設定と前日譚を盛りすぎ!

ですが、星風まどかの笑顔にかかると、この盛りすぎ設定なキラが舞台の上に実在してしまうんだから不思議。

花火の場面の無邪気な笑顔が、クロノスケと出会ったばかりのキラの笑顔とおんなじで、クロノスケのデジャブを誘う演出がとても素敵でした。

赤いメッシュのロングストレートも、青メッシュのボブも可愛かった。

コウズケノスケ/水美舞斗

「ああ、さすが上級生だなぁ」と思う時っていつでしょう。私は、任でない役も自分のものにしているジェンヌさんを見た時にしみじみと、そう思います。

今回の水美舞斗がまさにそう。

「元禄バロックロック」では、主要登場人物がみんな何かに執着しています。執着により、皆前を向かずに過去ばかり見ている。時を戻せたら…と祈っている。

コウズケノスケが執着しているのは、元妻、ケイショウイン。ケイショウイン本人は、登場人物の中では珍しく、現状を受け入れ、気丈に前を向いているのだからなんとも皮肉。

元妻に執着し、時を戻して妻だけでなく権力も手に入れようとするギラつき。しかも、その算段をくの一ツバキの太ももを撫でさすりながら行う。まさに愛欲にまみれた人物像。

水美舞斗の良さはなんと言っても爽やかさ、健全さだと思っていたので、この役柄には正直びっくり! でも、似合っているんですよね〜。

キラに向ける笑顔が、かえって底知れなくてゾッとしました。爽やかさってこんな使い方もあるんだ…!

ギラついた役とジェンヌの持ち味があいまって、そこまで悪役に堕ちていかない、ちょうどいいバランスに仕上がっていたと思います。誰も死なない喧嘩両成敗を迎えても、観客が腹落ちできる役柄でした。

クラノスケ/永久輝せあ

すっかり陰の魅力を使いこなすジェンヌさんに成長しましたね!

全体的に享楽的で浮ついた世界観の中で、クラノスケは忠義=仇討ちに真面目に執着していた役でした。

クラノスケたち浪士が出てくると一気に場面が締まる!

うつけのふりを解いてクロノスケに真意を告げる場面、ヤスベエにクロノスケの尾行を命じる場面、そして何よりラストの討ち入りの場面の銀橋を渡る時の目つき! 最高!

復讐をさせたら右に出るものはいない、そんな永久輝演じるクラノスケに告げられた罰が「恨みを水に流す」こと。これは過酷。

ツナヨシが、水に流すだけではなく、ダイガクを中心に浅野家を再興せよ、と生きる目的もクラノスケに与えてくれたのが救いだなと思わせる脚本でした。

永久輝せあが今後も磨きをかけるであろう眉間の皺力に多分ずっと注目していくと思います。まずは「冬霞の巴里」が楽しみすぎる。

 

音くり寿ツナヨシとか、美風舞良ケイショウインとか、優波慧ヨシヤスとか、聖乃あすかタクミノカミとか、星空美咲ツバキとか、良さを語っても語り尽くせないけど、そろそろこの辺で。

 

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星組『柳生忍法帖』ネタバレ感想②/宝塚版と原作小説の相違点好きなところ

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星組公演 『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム!』 | 宝塚歌劇公式ホームページより引用

宝塚版『柳生忍法帖』を見て、意外とおもしろかったので原作小説を一気読みしました。

大野先生、敵討ちの相手たりうる銅伯&七本槍の悪さっぷりを、エログロをえがかずによく表現したな!

前回はその視点で舞空瞳演じる“ゆら“のことを書きました。

今回はゆら以外で印象に残った好きな部分を書き残します。

▼前回の感想記事

rintaro-mu.hatenablog.com

沢庵VS銅伯

沢庵が救った会津の民と同じ人数、城に捕らえている少年少女を殺して城門前に晒す銅伯。

劇場で、銅伯の狂気にもっとも戦慄した場面。

 

原作では、銅伯が基準にしていた人数は、民を助けるために十兵衛が倒した芦名衆(銅伯の部下)の数。

殺した数VS殺した数。十兵衛が沢庵に言ったとおりまさに戦争。

宝塚版では民を救うために十兵衛サイドも人を殺めていることには触れていない。

トップスターの役が何十人も殺す描写は入れられない、というすみれコードによる改変だと思うのだけど銅伯たち芦名衆の非道さが強調される効果的な改変だった。

 

助ければ助けるだけ人が死んでしまう。人を救う仏に仕える沢庵にとって、なんて効果的な反撃なんだろう。

沢庵の心がすっかり参ってしまう説得力がある。

自分の部下が殺された数は把握できるだろうけど、救われてどこかに逃された民の数を銅伯はどうやって知るのさ、ってツッコミどころはあるけど

天寿の力ない表情の演技も相まって、沢庵の絶望感を思うと宝塚版の展開は大成功だったと言っていい。

ダメージが全然釣り合っていない戦争を仕掛けるのも、愛月ひかるのゾッとするほど人間離れしたビジュアルの銅伯なら納得できてしまうしね。

具足丈之進の犬が美少年に!

具足丈之進三匹の大きな秋田犬「天丸・地丸・風丸」を操る獣使い。本人の実力は他者に劣るものの、犬との連携で様々な計略を巡らせる策士。

秋田犬が娘役演じる美少年になってました。宝塚ではよくある改変なのでしょうか。

てっきり「桜嵐記」の花一揆のように好きで丈之進につかえているのかと思いきや、姉を人質にとられているためやむを得ず丈之進に従っていることが劇中で明らかになります。

 

………すごい、原作よりも丈之進のゲス度が上がっている。

 

犬を従わせるよりも、少年をむりやり従わせている方がゲス度が高くないですか………。

 

地丸・風丸を盾にし、反旗を翻した天丸に刺されて最期を迎えるという展開も、人でなしっぷりがすごかった。

丈之進を演じた漣レイラのファンの方にとっては複雑すぎるけど、

犬という舞台難易度高すぎる素材をうまく回避して丈之進のクズさを演出し、

娘役の出番を増やしてしまうという見事さ!

 

堀一族の女たちだけで十分娘役の見せ場が多いのに、

さらに三役+3人の姉で四役増やしてしまうのが

宝塚の座付き作家として、生徒たちに名前のある役をたくさん振ろう、という意気込みを感じる。

 

特に天丸役・瑠璃花夏は劇場ですすり泣きが聞こえる名演でした。

姉を思って城へ帰ろうとする瀕死の天丸を見送る十兵衛のセリフがしびれるかっこよさだったんですよね…。原作にはないシーンですが、十兵衛なら確かにこういうだろうな、と。

 

沢庵による銅伯煽りソングがしいたげられる民達を象徴するわらべ唄に

宝塚版冒頭でゆらがうたうわらべ歌

会津で十兵衛がとらわれた牢の中で、天丸・地丸・風丸の姉が弟たちを思って歌っていたわらべ歌

原作では、沢庵が城に乗り込み銅伯たちと直接対決をするために、明成や芦名衆をコケにしまくる歌詞を城前で何日も歌い続ける、という笑いすら誘う使われ方でした。

宝塚版では、芦名衆が会津藩の民たちをいかに虐げていたか、民の悲しみを象徴する装置になっていたなーと感じます。

宝塚マジックにかかるとこんなにも悲しく、美しくなる上に、歌うまの娘役さん(都優奈)の見せ場にもする大野先生の手腕に感心。

 

さて、今日は『柳生忍法帖』の大千秋楽!

配信でもう一度楽しみます。

 

 

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