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橋の向こう側とこちら側/月組博多座公演『川霧の橋』感想/新トップスター月城かなとプレお披露目公演

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月組公演 『川霧の橋』『Dream Chaser -新たな夢へ-』 | 宝塚歌劇公式ホームページより引用 

kageki.hankyu.co.jp

宝塚の人情噺に限らず、江戸時代を舞台にした作品の、“かたぎ“と“かたぎではないもの“の概念が好きです。

現代でも使う言葉だけど、今よりもずっとその境は大きくて、一度超えてしまうと思うようには行き来できない。それでいて天災や犯罪で容赦なくかたぎではない世界に引きずり込まれてしまう理不尽さ。

それでももがく人々の営みにこそ物語が生まれる。

今作で登場する柳橋、多くの境を現している象徴的な装置だなと思う。

  • 火事の前と後
  • 真っ当に組織で上り詰めた幸次郎と社会からはみ出ていく清吉
  • 身分違いのお組お嬢さんに思いを寄せる半次
  • 境を越えようとする人
  • 境の存在を突き付けられる人
  • 境のこちらへ連れ戻そうとする人
  • ひきずり込もうとする人

ターニングポイントはいつも柳橋

原作のタイトルが『柳橋物語』というのも納得(実はまだ読んでないけど)。
今作、芝居の月組の本領発揮。どのジェンヌさんも、目線ひとつ、指先ひとつに気を配って、セリフにはそのまま出てこない登場人物達の心情をしみじみと伝えてくれました。

月城かなと(幸次郎)

青天が似合う(知ってた)
見目もいい、仕事もできる、喧嘩も強い、そして次期杉田屋の若棟梁に就任。そんな完全無欠の幸次郎さんだけど、女性に対して奥手、というみんなが茶化したくなる隙がある。

この人物像、生粋の美貌だけでも十分観客を惹きつけられるのに、真摯にすっとこどっこい道(?)を歩んできた月城かなとの魅力大爆発のはまり役!
そっぽむきながらお光ちゃんにかんざしを渡すシーンと源六さんに話かけながらお光ちゃんが気になって奥の間を覗き込んでしまうシーン、すっとこどっこい力が高くて大変よかった。
結婚の申し出を断られても、付き合いすら拒絶されても、打算なく、火事の中、源六さんにさんを助けに来てくれた幸さん。まっすぐ。とにかく真っ直ぐに真摯に誠実で、お光!!!せめてこの時に幸さんにしておけばー〜〜!心の野次をおさえられない!

結局3回もお光には断られてる。ラストシーンの「いつまで待たせるんでい!」がしみる。ほんとだよ。火事の後最初に再会した時にハッピーエンドでもいいくらいだよ! ドリチェ2時間やろう!

襟をつかんで「もう、どこへも行くな!」がめっちゃよかったですね。トップスターたるもの、もうすっとこどっこいだけでは終わらない。その後ちゃんと襟を直してあげてるのもかわいい。江戸の乙女の夢。

海乃美月(お光)

ピュアでまだ世間を知らない妹のような幼馴染お光。海ちゃんでは分別があり過ぎてしまうのでは??っと思っていたけど、さすがの演技力!
まだ自分の芯が定まってなくて、清吉の表面だけの情熱に圧倒されるし、母や源六さんの思いを素直に受け入れてしまう、優しくてだからこそ少し流されやすい娘さんを好演してました。

これは幸次郎さんもヤキモキしちゃう。
火事の後の茫然自失の様子、さすがヴィンディッシュ嬢役者、、、

鳳月杏(半次)

鳳月さんの作り上げる、和物の「いい男」のビジュアルが大好きです。

WTT、桜蘭記、そして川霧の橋と3度も見られて幸せ。

和服でも、足が長い人が着るとこうも様になるのね、という、、、大工のももひき(?)姿もかっこいい、、、作画が90年代あたりのひたすら足が長い少女漫画。
そんな少女漫画然のいい男が、かたぎとそうでない世界の境で苦しみながら思い人を一途に見守り続ける。。。江戸の乙女の夢その2。
すっと立っているだけで絵になるんだけど、1番好きなシーンはお組さんを見とるところ。

「半次さん?」と呼ばれて、(お嬢さん、思い出した!?)と言わんばかりに身を乗り出すけれど、お嬢さんはもう、ここではないどこかを見ている。(「優しい人」が過去形で、お嬢さんにとって半次さんは「楽しかったあの頃」の登場人物なんだなぁ、、、)
事切れるお組さんを見つめる半次さんの、悲しくもこれでお嬢さんの苦しみも終わるという安心感、自分の役割も終わったことを悟るような目が、とってもよかった。泣く。ここで1番泣いた。

ところで、『出島小宇宙戦争』で鳳月杏と暁千星の並びの素晴らしさを見出したタニタカヤ先生の審美眼にひれ伏したい!
この公演でも、半次と清吉の並び、そしてドリチェでのスパニッシュが熱かった!

暁千星(清吉)

川霧の橋、今回が初見だったので、清吉の熱い告白にお光と一緒に騙された。「ふむふむ、三年後、幸次郎さんと上方で成功して帰ってきた清吉とでお光を巡って争うのね」と思わされてしまった!
幸次郎を出し抜きたいという野心を、お光への情熱だと世間知らずの娘にすっかり思い込ませてしまう、、、ありちゃんの持っているギラギラとした「華」にはそれだけの説得力があった。
2回目の観劇時に気づいたけど、若棟梁発表の時にじっとりとした目で幸次郎さんを見ているんですね。ドリチェのスパニッシュといい、ありちゃんの放つ殺意に磨きがかかっていてよい。
リンゾウ、ペペル、清吉、と別箱では悪役が続いているけど、どれも人の業がありちゃんに憑依しているようで好きな役。大劇場公演でもそんな役を演じる日が来るのだろうか、恐ろしい子、、、!(いつかドン・ジュアンやってほしい)

 

▼ほかの月組子の感想はこちら

rintaro-mu.hatenablog.com

 

♦︎宝塚歌劇団・月組の公演感想◆ 『フリューゲルー君がくれた翼ー』(2023年大劇場・東京宝塚劇場)
『万華鏡百景色』(2023年大劇場・東京宝塚劇場)
 『グレート・ギャツビー』(2022年東京宝塚劇場)

 

 

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