文化的放電

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月組×齋藤先生の楽しさがつまった良作品|月組『フリューゲルー君がくれた翼ー』感想

月組『フリューゲルー君がくれた翼ー』『万華鏡百景色』を見てきました。

宝塚大劇場で新人公演よりも前に行われた公演です。

(新人公演前後で本役さんの演技も大きく変わるので、この旨書いておきます)

ベルリンの壁崩壊という社会派なテーマを、コメディ調のホームドラマにまとめ上げた齋藤吉正先生の意欲作。

齋藤先生と月組の相性の良さもあって、事前に予想してたよりもはるかに楽しい良作品でした。

ストーリーのネタバレがありますので、まだ見ていない方はご注意ください。

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画像は 月組公演 『フリューゲル -君がくれた翼-』『万華鏡百景色(ばんかきょうひゃくげしき)』 | 宝塚歌劇公式ホームページ  より引用kageki.hankyu.co.jp

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シリアスとコメディの絶妙なさじ加減

舞台は社会主義政権下の東ドイツ。

東ドイツの軍人官僚ヨナス(月城かなと)と西ドイツからやってきた歌手ナディア(海乃美月)の対立と融和のストーリー。

物語のクライマックスはベルリンの壁崩壊。

 

テーマはお堅いのに、お勉強作品にならない。

時代背景がよくわからなくても、月組生の演技で、東西それぞれのキャラクターたちの考え方の違いがしっかり伝わるからだと思います。

齋藤先生が月組生の演技の説得力を信頼していているからか、説明するためだけのセリフで辟易する場面はありませんでした。

 

時代背景を反映したシリアスな要素も盛り込んで、物語の中にしっかり明暗をつけていたところも好きです。

それが最もはっきり現れていたのが、ヘルムート(鳳月杏)のラストシーン。

え!嘘!と、結構ショッキングでした。

ストーリー全体をコメディの雰囲気でくるんでいるので、壁崩壊で全員仲良く和解しました、めでたしめでたし、としたって悪くないとは思う。

でも、おそらく本作品のために東ドイツについて徹底的に勉強された齋藤先生にとって、安易なハッピーエンドにはすることはできなかったのでしょう。

世の中には決して相容れない考え方がある、というヘルムートのラストがあったからこそ、ヨナスと母親(白雪さちか)の再会やヨナスとナディアの相互理解が、より尊いものに感じられるのだと思うのです。

斎藤先生の絶妙なさじ加減でした。

月組と斎藤先生の相性の良さを実感する楽しい作品

斎藤先生の作品は、役名のない通行人や群衆にも一人一人の人生が設定されているように感じます。

それが、芝居の月組と大変相性が良い。

最近の作品だと…

  • 夢現無双の京都の町人や大和路の人々
  • IAFAのホテルマンやセレブたち

月組お得意の小芝居が加わって、登場人物が群衆一人一人にいたるまで濃い!

本作品でも、ヨナスの部下トーマ(礼華はる)には元レスリング選手という設定があります。*1

多分これ、作中では明言されていないはず。

だけどこの設定、きっちり役作りには反映されていて、トーマはちょいちょいダンベル持っていたり、脳筋な発言やリアクションがあるんでるよね。

こういったしかけがどの登場人物にもあるので、何度見ても、え!ここでこの人こんなことしてたの?!という発見を楽しめそうな作品です。

ベルリンの壁崩壊の場面が素晴らしかった!!

1789のクライマックスがバスティーユ監獄襲撃なら、本作品のクライマックスはベルリンの壁崩壊。

気がついたら涙が出てくるくらい心を揺さぶるシーンでした。泣くと思って見に行ってなかったから、ほんとうに驚いた。

壁に集まる民衆と保安職員たちの混沌から、ゆっくりと響きだすフランツ神父(夢奈瑠音)のベートーヴェンの第九・喜びの歌。

ステージも会場も静まり返り、登場人物だけでなく、全ての観客の意識がただ1点、フランツ神父に集中したように感じました。

夢奈瑠音は、ほんっとうに声がいい。

彼女の良さを活かした、素晴らしい役と場面だと思います。

 

そこからの盛り上がりもすごい。

盆が景気良くぐるぐる回って、東側と西側の民衆が交互に現れ、次々と第九に加わっていく。

月組生が作り出すハーモニーはただ美しいだけではなく、東西ドイツ融和への心からの願いが込められているように感じて、涙が出てきました。

 

筆者が見たときは、全体的にまだセリフの応酬への感情の味付けが手探り状態の印象でした。

ジェンヌさんの役への理解が深まって、演じるたびに変化していくのが舞台の魅力。

ここまでにいたる登場人物の感情により磨きをかけて、ベルリンの壁崩壊の場面でもっと貪欲に観客の心に揺さぶりをかけてきてくれることに期待します。

また東京で見るのがとっても楽しみです。

 

▼ショー『万華鏡百景色』の感想はこちら

rintaro-mu.hatenablog.com

 

 

 

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*1:宝塚大劇場版パンフレットの礼華春インタビューより