文化的放電

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よくわからない場面は1,2場で十分です/星組『VIOLETOPIA』感想

 

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4月6日は星組公演『RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem~』『VIOLETOPIA』の大千秋楽でした。

モリタは配信2回、東京で1回(奇跡のSS席!)見ることができました。


www.youtube.com

感想を記録しておきます。まずは『VIOLETOPIA』から。

あらかじめお断りしておくと、モリタと本作は相性があまりよくなかったので辛口感想です。

まずは好きなところから

第5場 楽屋、燻る憧憬

その場にいない女優を思って鏡にまで嫉妬する男役たち。若手男役たちのかわいげのあるキラキラを楽しめる場面でした。

極美慎の滑舌がすごく良くなってました。

滑舌がいいと歌詞がストレスなく聞き取れるので、その場面がどういう場面か初見の人でもわかって楽しめます。真ん中に立つには滑舌がすごく大事だと思う。

天飛華音も滑舌いいんですよねぇ。星組盤石だ。

第6場 狂乱の酒・観客・酒

本日発表された舞空瞳の退団。それを思うと、このショーで黒燕尾姿を見られたのはほんとうに良かったです。

星組生全体でのスピーディでクールなダンスもかっこよかった。

礼真琴がトップになってから、星組生全体のダンスや歌のスキルがめちゃくちゃ向上したと感じます。

第7場 孤独

中詰のあと1人取り残された礼真琴が、壇上で踊りまくる圧巻の場面。

後述するのですが、ここまでの場面で心が乗れていなかったので、理性ですごいなーと味わう場面になってしまいました。

『ロックオペラ・モーツァルト』で、失意のモーツァルトがパリの街なかをボロボロの衣装でのたうち回る場面があって、モリタはその時礼真琴の圧倒的ダンス力を初めて目の当たりにしたのです。

幕間に入ってもしばらく呆然としてしまうほど心を揺さぶられたことを思い出しました。

本ショーの本場面はあえて地味な衣装で礼真琴の超絶ダンスを見せる、という意図だったと思うのですが、『ロックオペラ・モーツァルト』でのインパクトが強すぎました。モリタにとっては、好きだけど既視感がある場面でした。

ショーなのだから、燕尾やツヤのあるスーツなどわかりやすく王道な衣装で、技術だけでなくスターのキラキラ感も楽しみたかったです。

第8場 エントランス・ノスタルジー

退団者の餞別場面。ここが一番好きです!

クラシカルなブラウンのコート&スーツスタイルで銀橋を歩く天華えま。少し鼻にかかった、ゆったりとした歌声に身を委ねていたら,1930年代風の娘役たちが登場。

これこれ!こういうのが見たかったの!と心のなかで拍手喝采!

指田先生!こういう場面もっとやってくださーい!

フィナーレ

衣装、演出ともによかった。

特に舞空瞳の「わたしが星組のトップ娘役です☆」を体現した女王のようなきらびやかさには、いいもん見たな〜と大満足。

 

と、好きな場面はこんな感じです。

全体として、ジェンヌの持ち味と指田先生の世界観がうまくかけ合わさっているところが印象に残っています。

絵画的な美しさ

指田先生のこれまでの作品はご縁がなくて見たことがないのですが、先行画像やポスターからその独特の雰囲気が印象に残っています。

本ショーでも指田ワールド全開の場面が多く、配信で映った引きの画が絵画のようで驚きました。

特に第1場 追憶の劇場、第3場 サーカス小屋の宿命、第6場 狂乱の酒・観客・酒。

衣装や照明などがジェンヌの魅力を際立たせるよりも、場面全体としての美しさを優先して組み立てられているように感じました。

マジョリカマジョルカの宣伝画像やミュージシャンのPVのような印象。

その商品や曲の世界観を表す、という目的であれば素晴らしい作品だと思う。

ここが、逆にモリタには合わなかった部分でもあります。

1人1人のジェンヌを際立たせることが最大の目的(観客、特に常連ほどジェンヌを見に来ているわけだし)である宝塚に求めている作品ではありませんでした。

 

ここから、本ショーの苦手なところを言語化していきます。VIOLETOPIA大好き!何度も見て考察しちゃう!な方は回れ右推奨です。

苦手なところ

説明不足でVIOLETOPIAの設定がよくわからない

上田久美子『BADDY』、栗田優香『万華鏡百景色』のように、女性演出家によるショーは独自の世界観が強いですが、この2作品は冒頭の歌で世界観をしっかりと説明していました。

BADDYは「ここはピースフルプラネット"地球"。ここでは悪がすべて排除されている。そこに月から悪(BADDY)がやってくる」お話。

万華鏡百景色は「万華鏡の付喪神たちが語る、一組の男女の江戸時代から現代にかける輪廻転生の物語」。

初見でも、パンフレットを読んでいなくてもわかります。

rintaro-mu.hatenablog.com

本作は「VIOLETOPIA」という造語がテーマです。なおさら、第1場で礼真琴の歌で世界観を説明する必要があったと感じます。「追憶の劇場 VIOLETOPIA」の歌詞だけでは、なんか寂しいショーなんだなという雰囲気しか伝わらず、そこでどんなお話が展開されていくかがわかりませんでした。

「VIOLETOPIA」、ぱっと聞いただけで受け取るイメージは「スミレの理想郷」。

可憐でハッピーな感じのショーなのかなと思ってみれば、お出しされるのは「廃墟の劇場とそこに棲み着く記憶が蘇る。劇場でありながら魔界、VIOLETOPIA」の退廃的な世界観です。

開演前によっぽどパンフレットを読み込んでいる人でなければ、このギャップについていってショーに入り込むことはできないでしょう。

終演後のロビーで「VIOLETOPIAっていうから可愛いショーだと思ってたわ。なんだか怖いショーだったわね」という感想が耳に入り、心のなかで全力で同意しました。

初見でよくわからない場面が多すぎる

例えば第2場 バックステージは虚構。

暁千星が登場したから暁千星を見ていれば話がわかるのかと思いきや、舞台の真ん中にいるのは天華えまと天飛華音…。

ここも暁千星登場時の歌で、花嫁役のダンサーに思いを寄せる裏方の青年が主役だよ、と説明がほしかったです。

せっかくの暁千星のワークブーツでのキレッキレのダンスと詩ちづるとの長いスピンも、 これはなんの場面? この人たちの関係性は? などに気を取られて集中できませんでした。

モリタが見た回では、せっかくのスピンに拍手なし。普段のショーならあれだけ長いスピンなら拍手が起こるはず。

「ああ、ここはこういう場面なのね」と観客がスッと理解できるって大事なのだと実感しました。

モリタが感じた客席の雰囲気では、中詰に入るまで観客はおいていきぼりでした。

(オペラを上げている人が少なく、ウトウトしている人もいた。円熟期の星組公演なのに…)

初見ですぐにどういう場面かわかったのは、「第5場 楽屋、燻る憧憬」くらいかな。

一方「第8場 エントランス・ノスタルジー」は、どういう場面かわからなくても天華えまはじめとするジェンヌたちの魅力にうっとりできる、大変宝塚らしい場面でした。

盛り上がってははしごをはずすような展開が続く

本ショーが狙った観客の心の動きは、はたして宝塚を見に来ている観客が求めているものだったのか?と疑問です。

盛り上がったと思ったらしぼんでいったり、泡が弾けるように夢から覚める展開が多すぎました。

第2場 バックステージは虚構では、暁千星のロングスピンで魅せたかと思いきや、(それまでの展開は青年の夢想だったから)何事もなかったかのように淡々とはけていく現実の登場人物たち。

第3場 サーカス小屋の宿命、一瞬で遠くに去りゆくサーカス団員たち。(影絵の演出、絵としてはものすごく美しい)

第6場狂乱の酒・観客・酒、星組生による美しい集団パフォーマンス(でも誰も目立っていない…)からの第7場 孤独で舞台に一人取り残されるトップスター。

手拍子などで客席も一緒に盛り上がっていたのに、上がったテンションの持っていきどころがなかったです。

予定調和を避けた展開はスパイスになるけれど、何度も続くとはしごを外されているように感じました。

トンチキな作品であっても、ジェンヌの持つエネルギーでいいもの見たなぁと思えるのが宝塚の強みだと思っています。なのに本作はこの構成のせいで、せっかくジェンヌのエネルギーが観客まで届いても、それを取りあげたり、しぼめてしまう。

フィナーレ〜パレードあたりの余韻しか持って帰れず、エネルギー不足で『ジャガービート』のBlu-rayを衝動買いしてしまいました。

退廃的で前衛的な雰囲気が、今の星組の持ち味と相性がよくない

場面としての統一感や美しさを優先した衣装に、ジェンヌのせっかくのビジュアルが紛れていることも多かったです。

追憶の劇場、サーカス小屋の宿命、中詰(宮廷と役者と青春)の衣装、狂乱の酒・観客・酒あたり…。

特に中詰は、トップ・礼真琴すらあまり目立っていなかった。あえて衣装にそこまで差をつけていないように見えました。

衣装に負けていなかったのは、暁千星や極美慎レベルのスタイルの持ち主だけだったような。

不協和音が続く音楽が、礼真琴、暁千星のエネルギーのある発声とあまりあっていなかったのも印象に残っています。極美慎や天飛華音も発声や滑舌が礼真琴に似ているので、男役1〜4番手とあっていなかったってことでは…。

ジェンヌの歌を楽しむ前に、本能的にソワソワと落ち着かない音楽が多かったです。

サイバーサングラス

ラインダンスで「ここからの流れは王道っぽい」と思っていたら、大階段に並ぶ男役たちの顔にサイバーサングラス。心の中でずっこけてしまいました。

男役群舞だというのにあんなにもオペラグラスをあげている人が少ないショーは初めてです。みんな贔屓を探すのを諦めていたのだろうか。

サングラスがあることによってジェンヌがかっこよく見える、というわけでもないし。(『BADDY』の大門サングラスは必要な演出だとわかるけど)スターシステムが前提にある宝塚に、本当にそぐわない演出だったなと思います。(サングラスを外した後に炸裂する星組男役のオラオラ芸はよかった!)

 

なんだかんだで、好印象をいだかなかった観客にここまで長文の感想を書かせるってのが指田先生のすごさなんだなと思います。語らせる力があるというか…。

大衆性と折り合いのついた指田先生の今後のショー作品に期待しています。

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