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全てを解決するのはやっぱりトップスターの愛だよね!ザ・花組な名作/花組「元禄バロックロック」ネタバレ感想

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花組東京公演、無事に千秋楽を迎えられてよかった!

配信で花組の皆様、会場の皆様と一緒にこの公演を楽しむことができた奇跡に感謝しています。

生観劇も含めて、今日の配信が2022年の宝塚初めでした。延期されている他の組の公演も、予定どおり再開されることを祈ります。

さて、忘れないうちに「元禄バロックロック」の感想です!

kageki.hankyu.co.jp

三井住友VISAカード シアター
忠臣蔵ファンタジー
『元禄バロックロック』
作・演出/谷 貴矢

花、咲き乱れる国際都市、エド。そこには世界中から科学の粋が集められ、百花繚乱のバロック文化が形成されていた。
赤穂藩藩士の優しく真面目な時計職人、クロノスケは、貧しいながらもエドで穏やかに暮らしていたが、ある日偶然にも時を戻せる時計を発明してしまい、人生が一変する。時計を利用し博打で大儲け、大金を手にしてすっかり人が変わってしまったのだ。我が世の春を謳歌するクロノスケであったが、女性関係だけは何故か時計が誤作動し、どうにも上手くいかない。その様子を見ながら妖しく微笑む女性が一人。彼女は自らをキラと名乗り、賭場の主であるという。クロノスケは次第に彼女の美しさに溺れ、爛れた愛を紡いでいくのだった。
一方、クロノスケの元へ、元赤穂藩家老クラノスケが訪ねてくる。コウズケノスケとの遺恨により切腹した主君、タクミノカミの仇を討つために協力してほしい、と頼みに来たのだ。だがそこにいたのは、かつての誠実な姿からは見る影も無くなってしまったクロノスケだった。時を巻き戻したいと嘆くクラノスケに、時計を握りしめ胸の奥が痛むクロノスケ。だが、次の言葉で表情が一変する。コウズケノスケには、キラと言う女の隠し子がいることを突き止めたと言うのだった・・・。


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谷貴矢先生、大劇場公演デビューおめでとう!

「元禄バロックロック」は、推し演出家の一人である谷貴矢先生の大劇場公演デビュー作です。

言葉遊びと鮮やかな色彩感覚、突飛な世界観で観客の度肝を抜くけれど、人と人との互いを想う心が主題なことが多く、見終わった後には温かい気持ちにさせてくれる演出家です。

韻を踏みまくるテーマソングもクセになります。光の演出もお上手なので、できれば劇場で観劇してどっぷりとその世界にひたりたかった…。

「元禄バロックロック」も、大劇場公演だからって一切の遠慮することのない谷貴矢ワールド全開のタイトル&あらすじで、発表された時からめちゃくちゃ期待していました。

鎖国していないifのエドでコウズケノスケの娘を中心に繰り広げられる忠臣蔵のサイドストーリー。

アニメやゲームなど二次元作品では当たり前となっている「ループもの」の構成を取り入れて、観客を置いてきぼりにすることなくハッピーエンドにまとめ上げた快作でした。

ダンダラ模様でおなじみの赤穂浪士の衣装もすっかり谷貴矢ワールドでしたね。鈍く輝くシルバーを基調に、さまざまな素材の生地や柄がモノクロながらも華やかにまとめ上げられていて目を楽しませくれました。衣装担当は加藤真美先生。

クロノスケ/柚香光

めっちゃくちゃかっこよかった…!

この作品、宝塚で上演されていなかったら、キラを主人公として描くほうがおさまりがいいストーリー。クロノスケを主人公としてまとめ上げることができたのは、柚香光の圧倒的なビジュアル、特にキラを見つめる熱のこもった眼差しあってこそだと思う。

たった一人で時空を超えて戦ってきたキラを救うために、「時を戻して主君を救う」忠義のカタチへの執着を捨てたクロノスケの決断が、キラだけでなく執着にとらわれていた登場人物達を未来に進めることができた。

クロノスケがキラをどれだけ大事に思っているか、がその決断の説得力になる。

相手役をどれだけ大切に思っているかを言外に表現することは柚香光の真骨頂。

「ハイカラさんが通る」の中尉の紅緒さん大好きっぷりとはまた違う、クロノスケならではの「好き」の表現が散りばめられていました。キラへの想いを眼差しに、言葉遣いに、抱きしめる腕に、と全身で表現して見ていて苦しくなるくらい。「好き」の表現方法の引き出しがなんて多いジェンヌさんなんだろう。

あー、今回もハッピーエンドでよかった!

花火の場面の後の、キラの自分への想いを知って安心したからか、リミッターを外した大好きオーラがすごかった。あんな至近距離でクロノスケから見つめられて余裕で微笑むキラはすごいわ。

ラスト付近の「キーラ、笑ってくれよ、なぁ」の言い方なんて、ほんと、ずるい〜〜〜!
脚本に載っていなかったので、大千秋楽だけのアドリブ?
それとも公演中につけたされたセリフなんでしょうか。
あんなの10代の時に見てたら柚香光を拗らせていましたよまったく。

キラ/星風まどか

同期からの引き継ぎという異例のかたちで花組トップ娘役になった星風まどか。

一人でなんでもできて余裕綽々だけど寂しそうに笑うキラ、その笑顔がクロノスケを惹きつけてやまない、なんて谷先生、まどかちゃんに素敵なあてがきを贈りましたね。

でもね、谷先生。父親から隠し部屋に閉じ込められて育てられ、赤穂浪士の討ち入りにより父親と愛する人を同時に失い、愛する人が残した設計図を元に独力で時を戻す時計を完成させ、たった一人で過去に戻り、実家を飛び出し賭場の主人におさまる…って、いくらなんでも設定と前日譚を盛りすぎ!

ですが、星風まどかの笑顔にかかると、この盛りすぎ設定なキラが舞台の上に実在してしまうんだから不思議。

花火の場面の無邪気な笑顔が、クロノスケと出会ったばかりのキラの笑顔とおんなじで、クロノスケのデジャブを誘う演出がとても素敵でした。

赤いメッシュのロングストレートも、青メッシュのボブも可愛かった。

コウズケノスケ/水美舞斗

「ああ、さすが上級生だなぁ」と思う時っていつでしょう。私は、任でない役も自分のものにしているジェンヌさんを見た時にしみじみと、そう思います。

今回の水美舞斗がまさにそう。

「元禄バロックロック」では、主要登場人物がみんな何かに執着しています。執着により、皆前を向かずに過去ばかり見ている。時を戻せたら…と祈っている。

コウズケノスケが執着しているのは、元妻、ケイショウイン。ケイショウイン本人は、登場人物の中では珍しく、現状を受け入れ、気丈に前を向いているのだからなんとも皮肉。

元妻に執着し、時を戻して妻だけでなく権力も手に入れようとするギラつき。しかも、その算段をくの一ツバキの太ももを撫でさすりながら行う。まさに愛欲にまみれた人物像。

水美舞斗の良さはなんと言っても爽やかさ、健全さだと思っていたので、この役柄には正直びっくり! でも、似合っているんですよね〜。

キラに向ける笑顔が、かえって底知れなくてゾッとしました。爽やかさってこんな使い方もあるんだ…!

ギラついた役とジェンヌの持ち味があいまって、そこまで悪役に堕ちていかない、ちょうどいいバランスに仕上がっていたと思います。誰も死なない喧嘩両成敗を迎えても、観客が腹落ちできる役柄でした。

クラノスケ/永久輝せあ

すっかり陰の魅力を使いこなすジェンヌさんに成長しましたね!

全体的に享楽的で浮ついた世界観の中で、クラノスケは忠義=仇討ちに真面目に執着していた役でした。

クラノスケたち浪士が出てくると一気に場面が締まる!

うつけのふりを解いてクロノスケに真意を告げる場面、ヤスベエにクロノスケの尾行を命じる場面、そして何よりラストの討ち入りの場面の銀橋を渡る時の目つき! 最高!

復讐をさせたら右に出るものはいない、そんな永久輝演じるクラノスケに告げられた罰が「恨みを水に流す」こと。これは過酷。

ツナヨシが、水に流すだけではなく、ダイガクを中心に浅野家を再興せよ、と生きる目的もクラノスケに与えてくれたのが救いだなと思わせる脚本でした。

永久輝せあが今後も磨きをかけるであろう眉間の皺力に多分ずっと注目していくと思います。まずは「冬霞の巴里」が楽しみすぎる。

 

音くり寿ツナヨシとか、美風舞良ケイショウインとか、優波慧ヨシヤスとか、聖乃あすかタクミノカミとか、星空美咲ツバキとか、良さを語っても語り尽くせないけど、そろそろこの辺で。

 

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