文化的放電

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「芝居の月組」は継承されていく/月組博多座公演『川霧の橋』感想②/新トップスター月城かなとプレお披露目公演

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前回は博多座公演『川霧の橋』のトップコンビ~3番手の感想を記事にしました。

rintaro-mu.hatenablog.com

んが! 『川霧の橋』、わき役たちの人生も垣間見えるお芝居でした!

筆者が初めて見たのが月組公演、顔と名前が一致しているジェンヌが一番多いのも月組、ということでひいき目もりもりですが、今回は新トップコンビを支えるジェンヌさんの感想です。

夢奈 瑠音(杉田屋大棟梁・巳之吉/町役・嘉兵衛)

夢奈瑠音を知ったのは2019年『アンナ・カレーニナ』のコスチャでした。だからか、どのお役を見てもまずは「かわいい、かわいすぎる!」が先に来てしまっていましたが、今回初めての白髪! 96期にこの年代の役が任されるようになってきたんですね。

柔和で物腰穏やか、組内の大工はみんなかわいいけど、みんなどっかとがってて扱い難しいんだよな~と悩みも多そうな大棟梁を演じていました。

源六の家を訪問した場面、ゆーっくりとした座り方に、そろそろしっかりした後釜をすえないと…と考える大棟梁の年の重ね方を感じます。役の幅が広がっているな~。

ただ、後半火消姿と町役・嘉兵衛として出てきたときのほうが任にあっているな、と思ってしまった。(火消と嘉兵衛は同一人物だったのか?)

「朝から酒臭ェなこの家はよ!」ってべらんめぇ口調よかった~。活舌の良さと切れ長なお顔立ちが江戸の町人にぴったりでした。

結愛 かれん(およし)

およしは難しい役どころだと思う。

一緒になった幸次郎は初恋のお光を忘れてないし、結婚前から二人を知っていたおよしが幸次郎の気持ちに気づいていないわけがない。

だからといってただかわいそうな娘ではなく、幸次郎と一緒にお光と再会する場面ではお光との衣装の対比が鮮烈で、演じ方によっては観客になんだかもやもやするいやな女、という印象を与えかねない。

結愛かれんのおよしは、ぼんぼりの明かりのようでした。たおやかで優しくて、癒される…。

お光に対する思いとは全く違っていても、幸次郎はおよしとの間にも確かな温かい感情の交わりがあったんじゃないかな。

およしの存在があったからこそ、幸次郎は大火事後の需要増をうまく味方につけて杉田屋を盛り立てられたんだろうな、と想像させる女将さん姿でした。

(冷静に考えて、家に帰ったら結愛かれんがいるって、モチベーション上がりまくりではないだろうか。でも幸次郎にはお光さんがいる…悲しいお話…)

連 つかさ(杉太郎)

連つかさの青天がめっっっちゃ好きです。2019年『夢現無双』の時の涼やかで実直な植田という武士のお役のビジュアルが本当に良かった。

まつげたっぷりで華やかな目元は一見外国人役が似合いそうですが、和物メイク・青天と組み合わさると、清廉さの中にも意思があり、オペラなしでも思わず目がひきつけられてしまう。

さらに今回の杉太郎は、お調子者なムードメーカーで連つかさ本人のキャラクターにもぴったりなお役でした。杉太郎の「クラスに一人はいそうなお調子者」感めっちゃよかった。多分一番空気が読めているタイプ。

火事の後、悲劇を中心に進む展開を中和して、悲劇だけではない人情物に仕上げてくれた立役者の一人だと思います。

英 かおと(辰吉)

辰吉のポジションって何!?と思ってパンフレットを見たら、彼は杉田屋の人間ではないんですね。鳶職人。杉田屋とは大工現場などで業務を委託されている関係??(原作を読みましょう)

本当に江戸にいそう、「粋でイナセな」って形容詞がぴったりなビジュアルでした。神田神保町を隅々まで探したら、英辰吉を描いた浮世絵がどこかの古書店で発見されない??(無い)

トップスター演じる幸次郎に、女性の物まねも取り入れながら結婚生活をのろけてみせる場面の余裕っぷりに、もう99期が組の中核を担う時代なのね…と感動したり。

(この物まね、日に日に濃くなっていってるみたいで、千秋楽にはどうなっているのか楽しみすぎる)

天紫 珠李(お組)

「乳母日傘にお蚕包み、しみひとつなく苦労なく」、水たまりすら踏まずに生きていたお嬢さんから一転、病を患いながら夜鷹を続けなくてはいけなくなった、作中火事の前後で一番人生が変わってしまった人でしょう。

お組とは別の夜鷹が半次に吐き捨てた「あたしもお嬢さんだったんだよ!」という台詞から、江戸の町では決して珍しくない境遇だということが察せられます。厳しい…厳しすぎる町・江戸。

前半と後半では所作もせりふ回しも表情も変わってくるので難易度が高そうなお役でしたが、見事に演じていました。

天紫珠李は今まで「正しい・明るい・ポジティブ」な役のイメージが強かったのですが、夜鷹の境遇をお光に愚痴るときのはすっぱでやけっぱちな物言いがすごくうまかった。だからこそこと切れる前に、「お嬢さん」だった昔を思いながらお光に感謝を語る時の声色が際立ち、本当に泣かせます。

晴音 あき(小りん)

オペラグラス無しで見ていても、「あ、今はーちゃんがしゃべってる!」とすぐにわかる声質が『夢現無双』の出雲の阿国の時から大好きです。さらにオペラを覗いてたら、すぐに見つけられる舞台映えするお顔立ち。

今回、ザ・酸いも甘いも味わっているけどそれをおくびのも出さない粋なイイ女でした。お組さんを思う半次さんにちょっかいかけるところが切なくもかわいらしい。

声もよくエトワールも任されるくらい歌もうまい。『ロミオとジュリエット』の乳母のような一場面持てるお役への抜擢を、待ってます劇団様!

朝陽 つばさ(菊三)

冒頭のお祭りの場面、オペラで月城さんを追っていた筆者の目は途中から彼にくぎ付けでした。な、な、なんなのこの青髭のおじさんは! すごい!(褒めてる)

専科の梨花さんの夫役というプレッシャーがかかりそうなところを、ひょうひょうと軽やかに演じてくれていました。菊三がいると場面が和む!

杉太郎もだけど、こういう軽妙な登場人物がお話のバランスをとっていてくれてるな~と思います。(春海ゆうくんの飛脚と柊木くん演じる千代松もよい塩梅)

輝月ゆうまと紫門ゆりやが専科に異動し、月城かなともトップになり、月組の売り(?)のおじさん枠が減ってない?!と勝手に心配していましたが、この青髭おじさんを見られて安心しましたー。今後の活躍をめちゃくちゃ期待してます。

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