星組公演 『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム!』 | 宝塚歌劇公式ホームページより引用
宝塚版『柳生忍法帖』を見て、意外とおもしろかったので原作小説を一気読みしました。
大野先生、敵討ちの相手たりうる銅伯&七本槍の悪さっぷりを、エログロをえがかずによく表現したな!
前回はその視点で舞空瞳演じる“ゆら“のことを書きました。
今回はゆら以外で印象に残った好きな部分を書き残します。
▼前回の感想記事
沢庵VS銅伯
沢庵が救った会津の民と同じ人数、城に捕らえている少年少女を殺して城門前に晒す銅伯。
劇場で、銅伯の狂気にもっとも戦慄した場面。
原作では、銅伯が基準にしていた人数は、民を助けるために十兵衛が倒した芦名衆(銅伯の部下)の数。
殺した数VS殺した数。十兵衛が沢庵に言ったとおりまさに戦争。
宝塚版では民を救うために十兵衛サイドも人を殺めていることには触れていない。
トップスターの役が何十人も殺す描写は入れられない、というすみれコードによる改変だと思うのだけど銅伯たち芦名衆の非道さが強調される効果的な改変だった。
助ければ助けるだけ人が死んでしまう。人を救う仏に仕える沢庵にとって、なんて効果的な反撃なんだろう。
沢庵の心がすっかり参ってしまう説得力がある。
自分の部下が殺された数は把握できるだろうけど、救われてどこかに逃された民の数を銅伯はどうやって知るのさ、ってツッコミどころはあるけど
天寿の力ない表情の演技も相まって、沢庵の絶望感を思うと宝塚版の展開は大成功だったと言っていい。
ダメージが全然釣り合っていない戦争を仕掛けるのも、愛月ひかるのゾッとするほど人間離れしたビジュアルの銅伯なら納得できてしまうしね。
具足丈之進の犬が美少年に!
具足丈之進三匹の大きな秋田犬「天丸・地丸・風丸」を操る獣使い。本人の実力は他者に劣るものの、犬との連携で様々な計略を巡らせる策士。
秋田犬が娘役演じる美少年になってました。宝塚ではよくある改変なのでしょうか。
てっきり「桜嵐記」の花一揆のように好きで丈之進につかえているのかと思いきや、姉を人質にとられているためやむを得ず丈之進に従っていることが劇中で明らかになります。
………すごい、原作よりも丈之進のゲス度が上がっている。
犬を従わせるよりも、少年をむりやり従わせている方がゲス度が高くないですか………。
地丸・風丸を盾にし、反旗を翻した天丸に刺されて最期を迎えるという展開も、人でなしっぷりがすごかった。
丈之進を演じた漣レイラのファンの方にとっては複雑すぎるけど、
犬という舞台難易度高すぎる素材をうまく回避して丈之進のクズさを演出し、
娘役の出番を増やしてしまうという見事さ!
堀一族の女たちだけで十分娘役の見せ場が多いのに、
さらに三役+3人の姉で四役増やしてしまうのが
宝塚の座付き作家として、生徒たちに名前のある役をたくさん振ろう、という意気込みを感じる。
特に天丸役・瑠璃花夏は劇場ですすり泣きが聞こえる名演でした。
姉を思って城へ帰ろうとする瀕死の天丸を見送る十兵衛のセリフがしびれるかっこよさだったんですよね…。原作にはないシーンですが、十兵衛なら確かにこういうだろうな、と。
沢庵による銅伯煽りソングがしいたげられる民達を象徴するわらべ唄に
宝塚版冒頭でゆらがうたうわらべ歌
会津で十兵衛がとらわれた牢の中で、天丸・地丸・風丸の姉が弟たちを思って歌っていたわらべ歌
原作では、沢庵が城に乗り込み銅伯たちと直接対決をするために、明成や芦名衆をコケにしまくる歌詞を城前で何日も歌い続ける、という笑いすら誘う使われ方でした。
宝塚版では、芦名衆が会津藩の民たちをいかに虐げていたか、民の悲しみを象徴する装置になっていたなーと感じます。
宝塚マジックにかかるとこんなにも悲しく、美しくなる上に、歌うまの娘役さん(都優奈)の見せ場にもする大野先生の手腕に感心。
さて、今日は『柳生忍法帖』の大千秋楽!
配信でもう一度楽しみます。