東京国立博物館で特別展「古代メキシコーマヤ、アステカ、テオティワカン」を見てきました。
筆者の古代メキシコの知識は映画『ドラえもんのび太と太陽王伝説』のイメージと、『日立 世界ふしぎ発見!』で見たかも、くらいです。
どこかで見た!という有名どころの資料がたくさんあって、見ごたえがありました。
現地を感じる展示空間
メキシコの自然や世界遺産の写真が展示室内にドーンと貼られています。
しかも、全資料写真OK。
さらに展示ケース無しで360度から観覧できる資料も多く、背景込で資料の写真を撮っていると、現地を旅行しているようです。
テオティワカン、羽毛の蛇ピラミッドを背に展示されているシパクトリ神の頭飾り石彫と羽毛の蛇神石彫
トゥーラのアトランティス像
アステカ文明のフロアはまさに太陽王伝説の世界!
マヤ、アステカ、テオティワカンの違い
さて、今回の展示では、古代メキシコの中でもマヤ、アステカ、テオティワカンを取り上げています。
平面軸(場所)と時間軸(繁栄した時期)が実は全然違います。(一部かぶっているけれど)
マヤ
前1200年頃から後16世紀までメソアメリカ一帯で栄えた文明。
とにかく期間が長い! エリアも広い!
熱帯のジャングルが広がるマヤ低地や針葉樹林帯のマヤ高地など、多様な自然環境で都市国家がネットワーク社会を形成していました。
都市間では戦争が頻繁に行われていましたが、ついに統一されることはありませんでした。
アステカ
14世紀から16世紀にメキシコ中央部に築かれた文明。中央集権国家。
日本だと室町時代くらいですね。意外と近い時代だ。
アステカから見るとテオティワカンははるか昔。テオティワカン文明の遺物を掘り起こして、加工して儀礼に使用したりしていました。
テオティワカン
海抜2,300mのメキシコ中央高原地帯。
日本一高い場所にあるパン屋さんは横手山頂ヒュッテ(標高2,300M)にあるそうです。テオティワカンはそれくらい高い。赤道直下とはいえ涼しそう。
紀元前2世紀から6世紀まで繁栄した、ピラミッドや宮殿、神殿のほか2,000ほどの住居用アパートメントが立ち並ぶ巨大な計画都市です。
日本だと弥生時代から古墳時代。当時の民族や言語も未解明な謎の多い文明とのこと。
それぞれの文明は、時代や場所は異なっていましたが、世界観や宗教観には共通する部分がたくさんありました。
その一つが、人身御供の文化です。
古代メキシコの人身御供文化
古代メキシコでは、数千年に渡り神に生贄を捧げる儀式が行われてきました。
15世紀にメソアメリカ地域を支配したスペイン人により「野蛮」な風習とされ、現代でもオカルト的な文脈で取り上げられることが多いかもしれません。
確かにその手法は現代の視点から見ると凄惨で血なまぐさく、今回の展示でも思わずウッとする説明文もありました。
しかし、古代メキシコ人の世界観から考えると、人身御供は単なる非人道的な宗教儀礼ではなく、世界を維持するための利他行動であったというのです。
アステカ文明、トラロク神の壺
トラロクは雨の神で、大河の無いメソアメリカでもっとも重要視された存在。多くの祈りや供物、そして生贄が捧げられた。
こんなおとぼけフェイスと生贄文化が共存する不思議な世界観。
古代メキシコの世界観では、人類も動植物も、太陽も月も、すべて他の犠牲によって生かされているというのです。
例えば、太陽の運行。
古代メキシコの世界観では、夜になると太陽は一度死にます。神が犠牲になりエネルギーを捧げることで、太陽が復活し次の日がやってくるのです。
日食の時はさらに多くの犠牲が必要だと考えられていたでしょう。
神が身を削って、太陽をはじめとした自然にエネルギーを与えている。そうして世界が成り立っていると考えられていたのです。
太陽や自然の恩恵を受ける人間も、命や犠牲を神や自然に捧げなくては、そのエネルギーの循環を保てず、世界が維持できなくるのです。
現代の倫理観を脇に置けば、究極の循環型社会と言えるかもしれません。
テオティワカンからは王や高位の神官が「放血」という自己犠牲の儀式を行なっていた錐が出土しています。(説明を聞いているだけで痛い)
支配下の人々から彼らに求められていた最も重要な役割だったのでしょう。
マヤ文明では、生贄にするために位や身分の高い戦争捕虜が好まれたそうです。
戦争自体が、生贄を獲得するために行われていたとも考えられています。
アステカ文明で生贄になるのは、他国と戦争してつかまえた捕虜、もしくはよそから連れてこられた奴隷でした。
古代メキシコの世界観で考えると、人身御供の儀式は世界を成り立たせるためのインフラです。そのために必要な生贄は、定期的に獲得しなくてはいけない資源と言えるのかもしれません。
展示されてる資料は、どれも素朴でかわいらしさすら感じるのだけど、チラチラ見え隠れする人身御供の文化。
テオティワカン文明のモザイク立像
この像、なんだかすごみを感じませんか?
このモザイク立僧と一緒に生贄12体が発見され、そのうちの何体かは頭蓋骨が無かったとのこと。
古代メキシコでは、生贄の頭蓋骨を加工して儀礼用の道具を作っていたので、この像とともに埋められた生贄たちの頭蓋骨も同様に加工されたのかもしれません。
理屈や世界観がわかっても、やっぱり怖い。。
アステカ文明のテクパトル
大阪万博ミャクミャクくんの親戚??と思わせるゆるキャラっぷりですが、生贄用のナイフです。
展示されてる資料は使われた形跡がなく、儀式用とのこと。
でも実際に使われたナイフも黒曜石なんでしょうね…想像しただけで痛い!
マヤ文明、チェチェン・イツァ遺跡のチャクモール像
『ドラえもんのび太と太陽王伝説』で見た!
展示されているチャクモール像は何に使われたか不明です。
同じような台座はたくさん見つかっており、その中には血液が付着していたものがあり、生贄の儀式で心臓などを載せていたと考えられています。
わかっていても、シンプルで伸びやかな曲線で作られた素朴な像と、心臓や血液といった現代の感覚ではグロテスクなキーワードが、なかなか頭の中で結びつきません…。
とにかくかわいい和み系資料
最後に、説明には生贄が登場しなかった、可愛い和み系資料をご紹介。
マヤ文明、ジャガーの土器
はい、かわいい。
鼻や口の周りがリアル。本物の死体を見ながら作ったのかな…。
森でジャガーに出くわしたら人間などひとたまりもなさそう。
アステカ文明、チコメコアトル神の火鉢
チコメコアトル神とは、熟したトウモロコシの女神様。
ダブルピースしてる陽気な神様かと思ったら、トウモロコシの穂を持っているんですって。
テオティワカン文明、鳥形土器
なんてごきげんな鳥! 本展示、筆者のイチオシの資料です!
発掘者により「奇抜なアヒル」と名付けられたこの土器、装飾に貝がふんだんに使われています。
それだけ聞くと、小学生の工作かな?って材料なのだけど、出土したのは高原地帯のテオティワカン。貝は遠方から運ぶしかいない超貴重品!
メキシコ湾岸部との交易を担った貝商人に関わる副葬品の可能性がある、とのことです。
超貴重な貝をたっぷり身につけて、浮かれているように見えます🦜
どうしてこれをグッズ化してくれなかったのかな。
連れて帰りたかった〜。
自然からの恵みに命を犠牲にして応えて、世界を維持してきた古代メキシコの人々。
彼ら以上に自然の恩恵を受けて、人新世という時代区分もできつつある現代、私たちはその恩恵に何で応えているのだろうか?
なんて考えながら上野を後にしました。