文化的放電

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厳しいのに不思議と穏やかな仏像たち|特別展『京都・南山城の仏像』@東京国立博物館感想

 

東京国立博物館で2023年9月16日(火)〜11月12日(日)まで開催中の特別展『京都・南山城の仏像』に行ってきた。

コンパクトながら、9世紀から13世紀にかけての仏像の変遷がよくわかる展示だった。

仏像展ではつい気になってしまう、ユーモラスな動物や邪鬼たちが今回も随所にいて楽しかった。

印象に残った仏像たちについて、記録を残しておく。資料名の頭の番号は、作品リストの番号です。

▼特別展特設サイト

yamashiro-tokyo.exhn.jp

▼東京国立館公式サイト

www.tnm.jp

図録の表紙は110年ぶりの修理が完成した「国宝 阿弥陀如来坐像(九体阿弥陀)」(平安時代 12世紀 京都 浄瑠璃寺)
南山城地域はお茶の産地でもある。特設ショップで、パッケージがかわいい木津川のお茶を買いました。

仏像を支える動物たち

5文殊菩薩騎獅像(平安時代 10世紀 京都 禅定寺)

筆者の目は文殊菩薩よりも獅子像に奪われた。会場ではぜひ真横から見てほしい。

獅子の足の踏んばり、ちょっとつき出したお尻、文様が宙に浮いているようになびく尻尾、オリエンタルなたて髪、と獅子の造形に製作者のこだわりを感じてしまう。

大きく見開いた栗サイズの目と、あんぐり開いた口。迫力ある吠え顔なのか、未知の物を前にしたフレーメン反応なのか…。

躍動感あふれる獅子像と落ち着きはらった文殊菩薩。

この2人(?)は何に対面しているのだろうか、鑑賞者の想像をかき立てる。

6普賢菩薩騎象像(平安時代 11世紀 京都 岩船寺)

普賢菩薩は、女性も悟りを開くことができると説かれた『法華経』を信仰する者を守ってくれるので、宮中の女性たちから大変人気があったらしい。

本像の、高く結い上げた髪、面長で少し俯きがちな顔立ち、ほっそりとしているけれど丸みを帯びた体つきからは、女性らしさを感じる。

発注者に関わりのある女性の姿を写したのではないだろうか。

普賢菩薩が乗っている白象はにこやかな笑みを浮かべている。目尻によった皺、縮まった耳を見ると、結構ご年配の象に見える。

16牛頭天王坐像(平安時代 12世紀 京都 松尾神社)

厳しい顔つきのはずなのに、不思議と怖くない本像。

その理由は、頭部の牛と牛頭天王の表情のシンクロっぷりにあるんじゃないだろうか。

両者のくわっと見開かれた目を向けられた者は、思わず笑みがもれて、さらに怒られてしまいそう。

それと、ひざなど関節部分は丸っぽいのに腕やすねは直線的で、ちょっとギャグマンガ日和を感じさせるのだ。

主役より目立つ? 踏みつけにされる者たち

10広目天立像(四天王のうち)

11多聞天立像(四天王のうち)(どちらも平安時代 11〜12世紀 京都 浄瑠璃寺)

本展の目玉、阿弥陀如来像を守護する四天王のうち2体。

広目天・多聞天と、彼らに踏みつけにされている邪鬼の作画の違いがとっても面白い。

まずメインの広目天・多聞天。炎を背負い、目尻をつり上げ、口をひき締めて怒りの表情を見せていても、この2体には気品があるのだ。

衣装のパーツごとに、華麗な装飾や載金(金箔を細く切って貼り付ける技法)で異なった柄が描かれて、繊細でとても凝っている。

一方、邪鬼たちである。彼らは線がシンプルでおおらか。

広目天に踏みつけられている方は、口を結んで重さに耐えているようだけど、そこまで切実さを感じられない。トムとジェリーのような冗談みがある。

多聞天に踏みつけられている方は、眠そうな目に少し広角の上がった口元から、余裕すら感じる。多聞天から懲らしめられながらも、鑑賞者を正面から見すえて、何かしでかしそう。

恐ろしいけれど、そこまでじゃない、というバランス感。邪鬼も制作当時から残っているものなので、平安時代後期の人々にとってこの感じが好みだったんだろうな。

15降三世明王立像(平安時代 12世紀 京都 寿宝寺)

音声ガイドで三浦じゅんさん、いとうせいこうさんも魅力を語っていた仏像。

密教の影響による三面六臂の異形の姿で憤怒の表情を浮かべる明王と、彼に踏みつけられている異教の神たちの穏やかな表情の不思議な対比が見事。

横たわっている神像なんて、自ら身を差し出しているようにも感じられる。

明王の踏みつけ方もちょっと手加減しているような?

あと2体、印象に残った仏像

12不動明王立像(平安時代 12世紀 京都 神童寺)

丸っこくてかわいらしい不動明王。

爛々とした丸い瞳、ふっくらとした丸顔、怒っているはずなのにふくよかさ故に牙が目立たず、笑っているように見える口元。

これから悪戯をしでかす幼児のようにも見えるし、おばちゃんが代わりに言ってあげるから!と人情味のある中年女性にも見える。

18阿弥陀如来立像(鎌倉時代・嘉禄3年(1227) 京都 極楽寺)

最後は、鎌倉時代の仏像。

立っている阿弥陀如来は、往生する者を極楽浄土から迎えにくる姿で、鎌倉時代以降に数多く造られるようになったそう。

小ぶりな手がかわいらしく、お腹まわりの衣装のひだの表現の細やかさも良い。

でも、今まで見てきた平安時代の仏像と比べると、線が力強い。

修理の際、像内から発見された「阿弥陀如来印仏」も必見。約96体の阿弥陀如来の印から、展示ケース越しに静かな迫力が伝わってきた。

1227年は、承久の乱から6年後。これを像内におさめた人物は、どんな祈りをこの仏像に込めたのだろうか。

 

全体をとおして、12世紀以降の仏像に感じるところが多かった。

武士が力を持ち、南都北嶺が朝廷に圧力をかけ続け、ついには東国に幕府が成立した時代。奈良と京都を結ぶ南山城地域も、その数々の動乱の影響は避けられなかっただろう。

そんな時代に生きた主に貴族たちの切実な願いが、世相を考えると不思議な穏やかさをたたえる仏像たちから、じんわりと伝わってくるのである。

東京国立博物館の展覧会感想

 

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