文化的放電

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四大絵巻以外も豪華で驚く/『やまと絵展』感想②(東京国立博物館)

東京国立博物館で開催中の特別展『やまと絵展 受け継がれる王朝の美』(2023年10月11日(水)〜12月3日(日))の内覧会に行ってきました。

会期①のみどころ4大絵巻については先日記事を書きましたが、それ以外にも「さすがトーハク!」な資料があったので記録しておきます。

会期①のみどころ四大絵巻の感想は▼こちらです。

rintaro-mu.hatenablog.com

www.tnm.jp

東博・平成館の特別展はみどころ以外の資料も驚くほど豪華

博物館での展示の魅力は、展示テーマの主役を張るみどころ資料だけでなく、それらを理解するための研究資料的役割の強い展示品があるところです。

メインの資料から展示が企画されることもあると思いますが、メインの資料だけでは展示は成立しない。

モリタは資料を見てできるだけ「なぜこの資料がこの展覧会に選ばれているのか? この章に展示されているのか??」を考えてみることにしています。

後で図録の解説を読んで、展示担当学芸員の考えと答え合わせをするとなお楽しい。

そんな楽しみ方をしている者としては、東博の展覧会はチラシやポスターでPRされる見どころ資料だけではなく、解説的役割の資料もしれっと豪華だから気が抜けません。

御堂関白記(平安時代・長保元年(999)、京都・陽明文庫)

さらっと展示されていて大変びっくりしたのがこちら。

平安時代に栄華を極めた藤原道長の”自筆”の日記です。

所蔵している陽明文庫は鎌倉時代に藤原家が分かれた五摂家の一つ、近衛家に伝来した文書等を収蔵する私設資料館です。

日本で義務教育を受けた人なら誰もが知っているあの藤原道長の筆跡が、直系の家系から散逸することなく約1,000年保管されて、今、目の前にある。

改めて考えるとすごすぎる。

本資料は国宝に指定されているだけでなく、2013年にはユネスコ「世界の記憶」にも認定されました。

まさかやまと絵の展示を見にきてこの資料にお目にかかれるとは思わず、驚きすぎてちょっとぽかんとしてしまいました。

どうして本展に展示されているかというと、成立した頃のやまと絵の動向がわかる記述があるためです。

長保元年10月21日条には、彰子が入内する際に持参する四尺屏風のための和歌を人びとに読ませたとある。次に同月27日、その屏風用の和歌を人びとが持ってきた。藤原の公任などに盃を進(勧)めた、という。

本展図録より引用

説明文に引用するだけで展示構成上成立する資料でも、可能な限り現資料を展示する。それが国宝であっても…!

という東博のすごさを実感する資料でした。

www.tnm.jp

↑2008年に東博で開催された陽明文庫の展示

車図(鎌倉〜南北朝時代・13〜14世紀、京都・陽明文庫)

牛車に関する故実書です。やまと絵が宮中での生活でどのように用いられていたのかの一端を示す資料として展示されていました。

図録によると、本資料の成立や内容は今上天皇らによる共同研究(2003年)により解明され、その歴史的意義が認識されるようになったのだとか。天皇陛下の研究成果が展示されているってことですか、びっくり。

牛車には身分や状況に応じた細かい規定があり、内装に描かれる絵画もそうでした。

院・摂関の所用であれば唐絵、侍従・中少将の所用であれば大和絵を描く規定だったそうです。唐物のほうが和物よりも格が高いとする精神性は絵画にもあったのですね。

牛車の絵のさらにその内装に細く描かれた風景画(画中絵)が手がこんでいてきれいでした。

fude.or.jp

↑こちらのサイトに画像が載っています

駿牛図(鎌倉時代・13世紀、文化庁、東京国立博物館)
馬医草子(鎌倉時代・13世紀、東京国立博物館)

bunka.nii.ac.jp

bunka.nii.ac.jp

この2点、本展示で初めて知った資料です。

第2章やまと絵の新様>第3節鎌倉絵巻の多様な展開のラストに展示されていました。

この節は

  • 平治物語絵巻 信西巻(鎌倉時代・13世紀、東京・静嘉堂文庫美術館)
  • 平治物語絵巻 六波羅行幸巻(鎌倉時代・13世紀、東京国立博物館)
  • 一編聖絵 巻第七(鎌倉時代・正安元年(1299)、東京国立博物館)
  • 法然上人絵伝 巻第十(鎌倉時代・14世紀、京都・知恩院)
  • 天狗草紙(鎌倉時代・13世紀、東京・根津美術館)

と、そうそうたる絵巻ビッグネーム達が並んでいます。

合戦絵巻、高僧伝絵、世相を風刺する天狗草紙ときて、最後が牛と馬が主題の絵巻。だんだん主題が人間じゃなくなっていく……この配置センスがなんかいいな〜と思って印象に残りました。

駿牛図は牛版似絵。牛車を引く牛やそれを御す牛飼童は自らのステータスを示す者として、身分が高い人びとにとって関心の的だったそう。

無理やり今に例えると、運転手付きの車、ということですもんね。

馬医草紙は馬の医者の秘伝書として伝えられた画巻。図録によると、美術史的な考察がまだほとんどなされてこなかった作品とのこと。

今後研究が進んで、また新たな切り口で展示されるのが楽しみです。

 

ちなみにこの節、展示後半には「前九年合戦絵巻」や「東北院職人歌合絵」が展示されます。わーい、こちらも楽しみ。

会期①のみどころ四大絵巻の感想は▼こちらです。

rintaro-mu.hatenablog.com

◆東京国立博物館の展覧会感想◆

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